わが逃走[192]読書感想文が書けない。の巻
── 齋藤 浩 ──

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毎年初夏と秋口に開催される句会に参加している。メンバーのほとんどが、以前勤務していた広告制作会社のコピーライター。

美しく、印象に残る名句の数々を生み出す彼ら“言葉のプロ”を相手にいかに戦うか、というわけで、毎回楽しくアイデアを出しつつ末席を汚す私なのであった。

そんな尊敬する複数のコピーライターが絶賛する小説。それこそが山田風太郎の忍法帖シリーズだ。老若男女を問わず、参加者のほとんどが大絶賛。

そんなに素晴らしいのかと『甲賀忍法帖』を読んでみたところ……。

以下ネタバレ注意。




第一印象は「これは忍法でなく体質なのでは?」だった。粘着性の痰を吐いて相手を絡めとるとか。性交渉をすると息が毒性を帯びて相手を殺すとか。

正直な話、「くだらねー」としか思えなかったのだ。

句会で年長者にそのことを話すと、あれはまだ真骨頂に達する前の作品なので、短編を読んでみてはどうか、とアドバイスを頂いた。

そこで選んだのが『姦の忍法帖』だ。Amazonで2円だったので早速購入。読み始めると……。

お殿様ご自慢の盾を構えた伊賀忍者を、同じくご自慢の矛で突く甲賀のくノ一。果たして強いのはどちらか。

武器と防具の性能以上にそれを使う者の精神力も問うべきである、よってお殿様の御前でまず性交渉をした上で試合をする。

といったおかしなルールでトーナメント戦をするという、まことにもってくだらない話。

忍法しゃくし返し!

筒状のものの先端からぴゅっと飛ぶ白濁した液がかかった者は、あれよあれよと言う間に肉体が変化し、体積は大人のまま胎児になり、受精卵になり、しまいには巨大な精子と卵子になるという忍術だそうな。

そもそもこれは忍術といえるのか。単なる魔法なのではないか。

忍法で隠居と手代のちんちんをすげ替えるなど、さらにどうでもいい話もある。主人公は特異体質で、一度女体と性交渉をすると相手の女性器がどろどろに溶けてしまう。そこに違う男がちんちんを挿入すると根元からとれる。

その上で、ふたつのちんちんを入れ替えたりしてるうちに、もとのちんちんがどへ行ったかわからなくなったとか、溶けた女性器をこねまわして男性器に作り替えて性転換するとか。

わからん。何を言いたいのか全くわからん。それゆえ「アホらしい」以外にまったく感想らしきものが書けない。

胃に毒虫を飼っていて敵に向けて吐くとか。これはまあ忍法といえなくもないが、毒をもつ虫を胃の中で飼えるというのは体質あってのことだろう。

女性器から分泌される液に浸した紙を、敵の顔に貼付けて窒息死させるとか、これも体質のなせる技。

やはり忍法帖というよりも体質帖とすべきではなかろうか。

美しいおなごを使い、忍法を完成すべく巨大なちんちんを鍛錬する話。

一度種付された女体にちんちんを挿入し、主君の精子を吸い上げて他の女体へ移す忍法『馬吸無(バキューム)』。アホとしか思えない。

吸い上げたものを国元の奥方様へ移すべく金玉袋に保存して、尿意をがまんしつつ忍びの者はひた走る。

途中、ちんちんを虫にさされて痒みにも耐えながらひた走るのだ。

この話の読書感想文を書けと言われても、私には書けん。

数々の言葉のプロの先輩が絶賛するにもかかわらず、「くだらないと思いました」としか書けん。

小学生のとき「もし自分が主人公だったら、きっとこうだったろうな」的なこ
とを書いてみなさいと当時の担任に言われたが、物語があまりにも荒唐無稽す
ぎてまったく感情移入できないのだ。

それなら“作者の気持ちになって考えてみよう。”

女体からちんちんを使って吸い上げた殿様の精子を自分の金玉袋に入れて、国元まで運ぶロードムービー的な、だからなんだ?

これにより読者に何を訴えたかったのか。
「人工授精は忍法だ」と言われても、
「はあ、そうですか。」なのである。
つまり、まったくわからん。

このままでは先輩諸氏には到底かなわない。

少しでもいい句を書けるよう、次は「くノ一忍法勝負」を読んでみようと思う。


【さいとう・ひろし】saito@tongpoographics.jp
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1969年生まれ。小学生のときYMOの音楽に衝撃をうけ、音楽で彼らを超えられないと悟り、デザイナーをめざす。1999年tong-poo graphics設立。グラフィックデザイナーとして、地道に仕事を続けています。