昼間っから布団で横になっているとどうでもいいことを考える。
そうそう、iPhoneのことをケータイと呼ぶ人はジジイなのだそうだ。
私なんざ、スマホもガラケーもひっくるめてケータイだと思ってしまうが、言われてみれば、今世紀初頭の高校生に向けた電話会社のアンケート調査において、ケータイで最も不要な機能のトップは通話だった。
このことを考えると、すでに「携帯する電話」という認識自体が前世紀的と言える。
ひとりでぼーっとしていると、いろんな「もしも」について考える。
そうそう、「携帯電話」とは誰が最初に名付けたのであろうか。持ち歩ける電話だから携帯電話。おそらく名付け親自身も、その立場を認識していなかったのではなかろうか。
それくらい直球、かつシンプルなネーミングだと思う。
初期の携帯電話は肩から下げる巨大なものだったが、もし最初から手のひらサイズだったとしたら、たとえば懐中電話と名付けられた可能性もあったはずだ。
だとしたら、略称は「カイチュー」である。
「あ、カイチュー忘れた!」とか「そこのカイチュー取ってくれる?」とか、ごく自然な会話がなされ、時が経つにつれ「スマホのことカイチューつて呼んでる。ダサ〜」などと言われる世の中になっていた可能性もあったわけだ。
カイチューといえば回虫である。
初めて回虫を知ったのは『ドラえもん』のひとコマからで、映画化もされたエピソード『のび太の恐竜』にそれはある。
のび太が恐竜について勉強するシーン、彼が積み上げた本のタイトルは、「大昔の動物」「恐竜の発見」「化石の見つけ方」「怪獣図鑑」、そして「回虫のおろし方」だ。
恐竜、怪獣、回虫という並びを児童漫画で平然としてのける、藤子不二雄のセンスは天才的だ。心から感銘を受ける。
そんなことを思い出していると、ゴジラやギャオス、ゼットンが怪獣でなく回虫だったら? なんて考えた。
もし怪獣映画が回虫映画だったら嫌だなあ、と思う。
そもそも回虫映画って何? そんなのあるのか?
ある! 『エイリアン』である。
『エイリアン』を簡単に言ってしまえばこんな話だ。
卵から生まれた歩く生殖器が、人の顔にくっついて寄生虫を産み付ける。体内で育った寄生虫は宿主の腹を破って現れる。
そいつは脱皮を繰り返し、頭がちんちんみたいな形の生き物に育って、宇宙船内を暴れまわる。
うわー、こう書くとB級映画っぽいなあ。実際リドリー・スコット監督自身も自らの作品をそう評しているが、『エイリアン』はシンプルで古典的な“コワイ話”を巧みにアレンジ、舞台を宇宙に移し、究極の美しさとリアリズムで恐怖を表現した確信犯的名作なのである。
今年はエイリアン前日譚の2作目『エイリアン・コヴェナント』が公開され、人工知能の危なっかしさと、人間どもの愚かさを、マイケル・ファスベンダーの、なんだかもやもやする素晴らしい演技で描かれたわけだが。
見終わった後、妙な感覚が頭から離れない。どこかで見た何かと繋がるような気がしてならないのだ。
『ブレードランナー』? 『2001年』?
もちろんそうだが、もっと私の根源にある何かだ。
そもそもなぜエイリアンの話になったかというと、回虫の話をしていたからで、なぜ回虫の話になったかというと、ドラえもんの話をしていたからだ。
そう! まさに『ドラえもん』。
てんとう虫コミックス13巻収録のエピソード「ハロー宇宙人」は、『プロメテウス』『エイリアン・コヴェナント』の元ネタに違いない!(と思わなくもない)優れたSF作品だ。全22ページ、まさに現代文明に警鐘を鳴らす壮大なストーリーと言えよう。
スネ夫とジャイアンが撮るUFOのトリック写真に対抗し、のび太とドラえもんは本物の空飛ぶ円盤を撮影することを計画する。
宇宙人を呼ぶのでなく、宇宙人を“作る”のだ。
小さなロケットに進化放射線源を取り付けて発射、火星の極冠付近に生息する苔に照射し火星人へと進化させ、UFOを作れる程度にまで文明を発展させて地球へ来させよう、というもの。
この物語において、のび太は「エンジニア」とよばれる人類の創造主に相当し、ドラえもんこそ、リミッター解除された人工知能を持つ、アンドロイドそのものではないか。
とくに印象的なシーンは、ようやく動ける程度に進化した苔に、ドラえもんが火を放つ場面だ。
「ほとんど枯れるだろうけど水を求めて動きまわる新種がきっと生きのこるよ」
このセリフ! まさに火星人にとってドラえもんはプロメテウスであり、マイケル・ファスベンダー演ずるデイヴィッドだと言えよう。
その結果、火星人は思惑どおり急激な進化を遂げるのだが、苔にとって彼のとった行為はホロコーストだと思うし、進化の過程になにかあれば、火星人はより凶暴な生物(=エイリアン!)となっていた可能性もあったはずだ。
そんなことを考え出したらもう、眠れなくなってしまう!
かと思ったのだが、さっき飲んだ薬の影響か、急激な睡魔が。。。
それではみなさん、おやすみなさい。
【さいとう・ひろし】saito@tongpoographics.jp
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1969年生まれ。小学生のときYMOの音楽に衝撃をうけ、音楽で彼らを超えられないと悟り、デザイナーをめざす。1999年tong-poo graphics設立。グラフィックデザイナーとして、地道に仕事を続けています。