わりと雑に扱っていた皿でも、割ってしまうとなぜか思い出がよぎり、捨てられなくなってしまうことがある。
そんな小皿やら急須の蓋やらが三枚たまった頃、極親しい間柄の年上の女性Aさん(年齢非公開)から、金継ぎワークショップに誘われたのだ。
金継ぎといってもいろいろあって、本格のものは金と珪藻土や漆なんかを使って、半年くらいかけて丹念に仕上げるわけだが、今回のはいわゆる『現代風金継ぎ』とよばれるヤツだ。
3時間コースで、合成樹脂と合成漆と代用金で完成させる。これなら根気のないオレにもできるかもしれない! と早速申し込んでみた。
工程は、いわゆるプラモデルの改造とほとんど同じで、実に気軽。割れたパーツは接着剤で貼り合わせ、欠けた部分はパテ盛りし、ナイフとヤスリで削って形を整える。最後に代用金を使って仕上げてゆく。
この工程を基に素材を伝統的なものに置き換えてゆくと、由緒正しい金継ぎになる。と考えると、この『現代風金継ぎ』、金継ぎとは何かを知る最初の一歩として非常に有意義なのです。
『現代風金継ぎ』の利点は、手軽に短時間に仕上げることができるところ。ただし、食品衛生法に基づいた素材を使ってないので用途が限られてくる。
たとえば湯飲みや急須などの形の復元は可能だが、合成樹脂を使用していることもあり、熱いお茶を入れたり電子レンジ調理に使ったり、といったことはできない。
そのあたりを理解した上で取り組むことが肝要と言えましょう。必要とあらば伝統的な金継ぎを学んでみるのも楽しいだろう。
なんといっても、「破片」が「皿」に戻る感激たるや、並大抵のモンじゃありません!
また、補修のみ…わからないように破片を繋ぎ合わせるだけだと、どうしても後ろめたさを感じてしまうものだ。
死んでしまった皿を生きているかのように見せている、自分自身に罪悪感をおぼえ、結果好きだった皿を目の届かないところへ追いやってしまうパターン。私の場合はまさにコレ。
ところが金継ぎは、割れた跡(景色とよぶ)を魅せることでさらに新しい価値を生む。
この美意識はスゴイな。「割ってしまった……」という罪悪感が消え、さらに愛着も増す。
このところ、ニュースを見ると、日本のダメなところばかり映し出されるのでげんなりしていたところだったが、「イイじゃん、日本の伝統的美意識!」とホントに久しぶりに心から嬉しくなったのであった。
というわけで、実際こんなことをしてきました。
1◎欠け
この程度の欠けは「ほつれ」と呼ぶらしい。エポキシパテ(ガラス用)を使用。主剤と硬化剤を等量練り合わせ、破損箇所に盛りつける。
10分程度で硬化するので、曲線状のナイフやヤスリを使って段差をなくし、オリジナルの形状に近づけてゆく。
陶器表面の釉薬をはがさないよう注意しつつ800番程度のペーパーをかけ、合成うるしと代用金(今回は真鍮)を使い仕上げた。
あ、なんか楽しくなってきた!
2◎割れ
ペケっと割れた小皿。
エポキシ系の接着剤(2液混合型)を、割れた面の両方に塗ってから圧着。ここで意外だったのは、ムギュっとはみ出させてよい、ということ。
陶器表面には釉薬が塗ってあるので、はみ出し部分はあとから簡単に剥がせるのだ。
形がズレないようマスキングテープで固定し、しばらく放置しておけば、気がつくとガッチガチにくっついていた。
接合面に欠けがあればパテで補修し、あとは代用金で仕上げて完成。
3◎割れにあわせて絵付け
長年苦楽を共にした急須の蓋が割れてしまった。三つの破片を繋ぎ合わせるだけでは芸がないので、フェイクの割れパターンを描き込んでみたところ、けっこう面白いものができた。
金はもう少し盛るべきだったかな。サイボーグ急須1号と名付けよう。
というわけで、お手軽現代風金継教室、楽しゅうございました。
なんといっても「割ってしまった……」というマイナスの力を、プラスに変換する思想が素晴らしい。
今回はわずか3時間の体験だったけど、話に聞くのと実際に作業するのとでは大違いであることを実感したのだった。
「あ! そういうことね!」という目からウロコな感覚。
部屋にじっとしているだけでは得られない「手で理解する」ことのできる貴重な時間でした。
【さいとう・ひろし】saito@tongpoographics.jp
http://tongpoographics.jp/
1969年生まれ。小学生のときYMOの音楽に衝撃をうけ、音楽で彼らを超えられないと悟り、デザイナーをめざす。1999年tong-poo graphics設立。グラフィックデザイナーとして、地道に仕事を続けています。