わが逃走[235]日刊アナログクリエイターの巻 その2
── 齋藤 浩 ──

投稿:  著者:



まず前回の続きから。

高性能な水性アクリル系塗料の出現により、模型業界における筆塗り表現が注目されている昨今、最新の塗料と四半世紀前のアクリルガッシュ(いわゆる画材)を併用して、塗装の実験をしてみた。

結果的に「けっこうイケた」のだが、その後、最新の溶剤を使って四半世紀前のアクリルガッシュ「のみ」での塗装を試みたところ、前回のようにはいかなかった。

下地色としての隠蔽力(透けない性能)は問題ないのだが、素材への食いつきを考えて設計された模型用塗料に対し、絵画用のガッシュは塗膜が弱く、後から異なる性質の塗料(エナメルなど)を乗せると、ひび割れたり剥がれ落ちることが判明。





ただし、模型用ベース色とアクリルガッシュを混色することは問題ないようなので、ベース色をいくつか揃えた上でガッシュで調色していけば、有害なシンナーを使わずに自由度の高い表現が可能となりそうだ。

そんなことを考えていたら、日本のメーカーから、新製品が発売された。その名も『アクリジョン ベースカラー』。発売元はGSIクレオス。模型用塗料のトップメーカーだ。

アクリジョンとは同社のエマルジョン系水性アクリル塗料シリーズで、現在発売中のラインナップに加え、下地処理に特化したものが今回登場したベースカラーということらしい。

製品紹介には、隠蔽力を高めた成分設計により上塗りするカラーの発色が向上、素材に対する食いつきもイイとある(意訳)。

というわけで、さっそく発売日にヨドバシにて購入した。ラインナップは白、グレー、赤、黄、青、緑の6色だ。

商品名は「ベースホワイト」「ベースグレイ」「ベースレッド」「ベースイエロー」「ベースブルー」「ベースグリーン」。

フタを開けてみたところ、ほぼ無臭。棒で撹拌してみると、粘度はサラサラとトロトロの中間程度。筆塗りに適した印象だ。使用方法の欄にも、筆塗りの場合は薄めずにそのまま使えとある。

試し塗り用にテキトーな部品を用意した。以前作りかけて放棄したガンダムのランナー(部品がついてる枠)だ。ちょうどパーツが6コついているので、それぞれに各色塗っていこうと思う。

白いパーツだと透け具合が判断しづらいので、わざとイジワルして濃いグレーの成型色のものを選んだ。
https://bn.dgcr.com/archives/2019/03/07/images/001

筆塗り1回目。
https://bn.dgcr.com/archives/2019/03/07/images/002

感覚はアクリルガッシュで色面を塗るのに近く、ジェッソにガッシュを混ぜて、粘度を抑えたような使い心地だ。乾くのも早いし、発色もイイ。表面に細かい粒子を感じるので、重ねる塗料の食いつきも期待できそう。

筆塗り2回目。
https://bn.dgcr.com/archives/2019/03/07/images/003

ホワイトとイエローに多少筆ムラが残ったが、この成型色にこの発色であれば、まったく問題ないレベル。下地としては充分だろう。

これに、模型用塗料を重ねてみた。
https://bn.dgcr.com/archives/2019/03/07/images/004
https://bn.dgcr.com/archives/2019/03/07/images/005

ベースホワイトの上に……

アクリル系明灰白色ベタ塗り。さらに溶剤で薄めに溶いたエナメル系フラットブラックを全体に塗り、溶剤を染み込ませたティッシュペーパーで拭き取り。下地に浸透するような印象で、かなりしっかり乗る。汚し過ぎたようだったので、上からアクリル系の明るいグレイを乗せた後、スポンジヤスリでならした。

ベースグレイの上に……

油彩系ブラウンを流し、エッジにエナメル系スカイグレイをドライブラシ。

ベースレッドの上に……

ベースカラーのみで調合した濃いグレイ(ベースグレー+ベースグリーン)を水で薄め、全体に乗せた後、ティッシュで拭き取り。乾燥後、同じく明るい赤(ベースレッド+ベースイエロー)をエッジまわりに重ねた。ベースカラーだけでも、わずか2工程で立体感のある表現ができる。

ベースイエローの上に……

ゴールドを塗装。ラッカー系塗料を筆塗りしたにもかかわらず、下地が溶けたりひび割れたりすることはなかった。やや薄めて塗ったのだが、一発で発色。乾燥後、溶剤で薄めに溶いたエナメル系クリアレッドをコートしている。さらに、ハイライト部分をエナメル系チタンゴールドで描き込み。

ベースブルーの上に……

ベースカラーのみの混色による濃いブルー(ベースブルー+ベースグレー+ベースレッド)をを水で薄め、全体に乗せた後、ティッシュで拭き取り。乾燥後、同じく明るい青(ベースブルーを基にベースホワイトを添加)をエッジまわりに重ねた。

ベースグリーンの上に……

アクリル系NATOグリーンを溶剤で溶いたものを全体に乗せ、すぐにティッシュで拭き取り。乾燥後、エナメル系スカイグレイをやはり溶剤で薄めに溶き、凹みを中心に重ねてみた。

さらに他の画材で描き込みなど。
https://bn.dgcr.com/archives/2019/03/07/images/006

ベースホワイト:ラッカー系つや消しクリアをスプレーした後、アルコール系
マーカー(コピック)でエッジを中心に色を置いた
ベースグレイ:エッジに鉛筆で輪郭を描き込み
ベースレッド:アルコール系マーカーで軽くシャドウを描き込み、鉛筆で輪郭をなぞる
ベースイエロー:鉛筆で輪郭をなぞったのみ
ベースブルー:タミヤのウェザリングマスター(アイシャドウのような半固形粉末塗料)のサンドカラーを適宜重ね、鉛筆で輪郭を描き込み
ベースグリーン:ウェザリングマスターをやや大げさに擦り付けた後、水を含ませたティッシュペーパーで軽く落とした

ベースレッドのアップ。
https://bn.dgcr.com/archives/2019/03/07/images/007

ベースイエローのアップ。
https://bn.dgcr.com/archives/2019/03/07/images/008

ひととおり試してみた印象は、とても使いやすく、融通のきく塗料と感じた。ベースカラーシリーズだけでもさまざまな表現が可能で、より絵画的な方向で製作したら面白いと思うし、もちろん失敗しても塗り重ねたり削り落とすことができるので気楽だ。

なによりも有機溶剤を使わずに、水さえあれば作業ができる。

これは死ぬまで作り続けたいジジイにとっても、新たに始める人にとっても、まさに福音と言えましょう。

塗料の残り香により、勉強サボってプラモ作っていたことが母さんにバレずにすむという、夢のような時代が到来したのかもしれない。


【さいとう・ひろし】saito@tongpoographics.jp
http://tongpoographics.jp/


1969年生まれ。小学生のときYMOの音楽に衝撃をうけ、音楽で彼らを超えられないと悟り、デザイナーをめざす。1999年tong-poo graphics設立。グラフィックデザイナーとして、地道に仕事を続けています。