crossroads[75]和歌山で大雨に降られてMaaSのことを考えた
── 若林健一 ──

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こんにちは、若林です。

前回、和歌山の串本で開催された NASA Space Apps Challenge の話題に触れましたが、その串本までの道のりで大雨になり、乗っていた電車が途中で運行中止になってしまうという経験をしました。

私は奈良に住んでいますので、串本へ行く場合は一度大阪へ出て、天王寺から串本へ向かう経路になるのですが、特急を利用するかしないかで、料金と所用時間が次のように変わります。

特急利用あり 運賃:約6,000円 所要時間:約3時間半
特急利用なし 運賃:約4,000円 所要時間:約5時間以上

特急利用なしの所要時間時間を5時間以上としているのは、乗り継ぎの関係で時間帯によっては7時間以上かかることがあるためです。

差額の2,000円が特急料金というわけですが、2,000円で少なくとも1時間半は節約できるということになります。

私はこの1時間半を節約したくて特急を利用しましたが、この日和歌山南部は台風並みの大雨で、電車は白浜駅で止まってしまったのです。





雨量計が基準を超えたため、列車の運行を中止する。再開はいつになるかわからないという状況でした。

白浜駅で降りた私たちは、振替輸送のバスに乗り換えて串本を目指し、特急で行った場合の到着時間の30分遅れで串本に到着、特急料金は全額払い戻しとなりました。

つまり、私たちは30分の時間と1時間弱の特急旅行の利便性を失い、鉄道会社は白浜以降までいくはずだった乗客の特急料金全額と、バスの手配にかかる費用を失ったと考えられます。

乗客の私たちは30分余計にかかりはしましたが、特急料金の払い戻しを受けた上で、特急を利用しなかった場合よりも1時間早く着くことができたわけですから、逆に得したという考え方もあります。

一方で、鉄道会社の方は受け取れるはずの特急料金を返上したうえに、振替輸送のためのバスまで手配しなければならないので、単純に考えると損をしたように見えます。

ただし、鉄道会社はこういった事態を織り込んだ上で事業設計をしており、料金設計をしているはずなので、丸々損をしてはいないはず。こういったケースも想定して、私たちが通常通り利用する時の料金にリスク分が加算されているはずです。

これは鉄道会社に限ったことでなく、企業は自社サービスや商品の価格にリスク分を上乗せしているのが普通です。

もちろん大雨がなければ、そのリスク分を使うことはなかったのですから、まったく損をしていないわけではありません。

とはいえ、鉄道会社がまるまる持ち出しているということでもなく、鉄道会社と利用者(該当路線以外の利用者も含む)でリスクを分担して背負っていると考えられます。

■ MaaS(Mobility as a Service)とは

暇だったこともあって、振替輸送のバスの中でそんなことを考えていたら、ふと "MaaS" という言葉が頭に浮かんできました。

"MaaS"とは "Mobility as a Service" の頭文字で、複数の交通を利用する移動をひとつのサービスとして提供するというものです。

たとえば、奈良在住の人が自宅から東京ディズニーランドへ行くことを考えた場合、以下の交通手段を利用することになります。

自宅からもより駅までバスもしくはタクシー
もより駅から京都駅まで近鉄
京都駅から東京駅まで新幹線
東京駅から舞浜駅までJR在来線

今は、これらの料金をバスもしくはタクシーなら降車時、近鉄とJRはそれぞれの乗車時に支払います。

MaaSの世界では、すべての移動がひとつの移動として扱われ、ルートを決めた時点で、トータルの料金を一括で事前に支払います。

スマートフォンの乗り換え案内アプリで、自宅から目的地のまでの経路を検索し、選択した経路にかかる費用をその時に、スマートフォンから支払えるみたいなイメージです。

この時に支払う金額は各交通機関の料金の合計ではなく、あくまでも出発から到着までのひとつの料金という考え方になります。

旅行代理店が提供するパック旅行みたいなものですね、自分だけのパック旅行をスマートフォンアプリで作ることができるという形になります。

つまり、利用者はバスがいくら、近鉄がいくら、新幹線がいくらということを意識する必要はありませんし、知ることもできません。

MaaSをざっくり説明すると、スマートフォンアプリで自分だけのパック旅行を作って利用できるサービス、そんな感じになります。

MaaSになれば、利用する日時によって料金を決めることができるので、パック旅行が季節によって料金が変動するように、同じ区間でも季節や時間によって料金を変動させることができるようになります。

最近認可されたタクシーの事前確定運賃サービスも、これに近い考え方のサービスです。

タクシーの事前確定運賃サービスがスタートします~タクシーを使いやすく、安心して利用できるようになります~
https://www.mlit.go.jp/report/press/jidosha03_hh_000312.html


今までのタクシー運賃は、降りるまで料金が確定しませんでしたが、事前確定運賃サービスだと乗る前に料金がわかるので、安心して乗ることができるというものです。

タクシー料金は単純に距離だけでは決まらないので、事前確定運賃の金額も利用する日や時間帯によって変動するのだそうです。利用者が多い時間帯や、道路が混んでいる時間帯は高く、利用者が少ない時間帯、道路が空いている時間は安くなるのかもしれません。

鉄道は時間帯に関係なく、同じ区間なら料金は一定ですが、MaaSが導入されれば利用者が少ない時間帯は安くなり、利用者の多い時間は高くなるといった料金設定が行われるようになるでしょう。

MaaSのようなサービスが導入されて移動の考え方が変わると、今回のようなケースの対応についても変わるのだろうなぁと、暇なバスの中でぼんやりと考えていました。

■ MaaSで交通が変わる

現在の交通網における、リスク分散の方法は限られています。

しかし、MaaSのシステムと天気予報のデータを組み合わせれば、電車の止まる可能性が高い日は料金を思い切り安く設定し、その代わり振替輸送などの手段に切り替わっても返金はありません、といったサービスの組み立てができるようになります。そんなリスク分散の方法も取れるようになるでしょう。

安くなくてもいいから快適に移動したいという方向けには、振替輸送もバスじゃなくてタクシーとか、優先的に案内されるといったサービスの組み合わせも可能になります。

お金のない若い人は前者を、比較的お金があってゆったり旅行を楽しみたい年配の方は後者を、それぞれ選ぶようになるかもしれませんね。

フィンランドがMaaS先進国として知られているのですが、フィンランドでMaaSを展開するMaaS Global社が日本への参入を決めていて、日本でも急速に普及することが期待されています。

災難ではありましたが、ゆっくりと考えごとをする時間になり、思いがけなくMaaSに対する理解が深まったように思います。

普段の生活が大きく変わる予感のするMaaS、なんだかとても楽しみになっていました。

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【若林健一 / kwaka1208】
https://crssrds.jp/aboutme/

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