わが逃走[260]家の中でじっとしていてもツマランので、脳内で散歩するの巻 その2
── 齋藤 浩 ──

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いつも散歩のことばかり書いてるけど、外出自粛要請が出ちゃったから、これからしばらくの間、散歩は脳内ですることとしたい。

今回は、6年前の9月、宮崎での散歩を思い出す所存。

このときは写真家・小河孝浩さんと県立美術館で展示をしたのが、その際、市内やら西米良村内やらを歩き回ってみたところ、意外なオモシロさに出会うことができたのだ。




今回紹介する写真はすべてSONYのRX100で撮影したもの。このカメラ、まず登場時のインパクトがすごかった。1インチのセンサーとズームレンズが、こんな小さなボディに入ってしまうという衝撃。

しかもレンズはカールツァイスの28mm-100mm(35mm換算で)f1.8-4.9。

ほぼ完璧なスペックである。これでファインダーが付いて、ズーム域がもう少し広角寄りだったらなーと思ってたら、後継機RX100M3の登場で実現。

以降、RX100シリーズはこのジャンルにおいて他の追随を許さない存在となってゆく。お散歩カメラとしては、これ以上のものは必要ないだろう。

現在もなおシリーズの拡充が続き、最新はRX100M7だったかな。初代機からすべてが現行機種なのもスゴイ。基本コンセプトがいかに優れていたかという証拠だろう。

初代機、M3と乗り継いできたが2018年、どうしても望遠ズーム搭載のコンパクトが必要となりやむなく手放した。

しかしRX100M3は、新しくやってきたカメラよりもはるかに使いやすかったのだ。ちと後悔した。とくにRAWデータの自由度が高く、現像時の微妙なトーン調整も、フルサイズに近い感覚で思い通りにできた。つまり、ラチチュードが広いのだ。

とはいえ、1インチコンパクトを2台持つかといえば、NOである。ミラーレスを選択した方がはるかにコスパが高いし、表現の幅も広いと考える。でもまたいつか、RX100とお散歩に出かけたいものである。

さて、これは「米良街道」をゆく途中で出会った、ぞうさんのようなコアラさんのような構造物だ。
https://bn.dgcr.com/archives/2020/05/21/images/001

山から湧き出た水がオーバーフローしそうになった際、それらを集めて道路の下の水路へ導く、的な仕事をするのだろうか。口から水を吐き出してるシーンを見てみたいものではあるが、そんなときこの峠は通行止めになってる可能性が高いかもしれない。

これは市内で飲んで酔っ払ってなにげなく空を見上げたの図。
https://bn.dgcr.com/archives/2020/05/21/images/002

アジアを感じましたね。

また外階段の格子や壁面パターンも、写真に撮ると「線」になるんだねえ。あたりまえだけど。日本の日常を風景で表現する際、意図的に電線や電柱を入れたりすることもあるけど、この写真は逆に意味を持ってしまうので却下だ。

西米良村にて。
https://bn.dgcr.com/archives/2020/05/21/images/003

この村ではなんてことのない当たり前の朝の風景なんだけど、当たり前の風景に山も清流もあるってのがすごすぎて言葉にならない。この時は、ただ記録の意味でシャッターを切ったにすぎなかったのだが、木と水の匂いがとても濃かったことを思い出した。

それにしても、RX100は繊細な描写をする。原寸で見ると、対岸の葉っぱの1枚まで描写しているのがわかる。手放すんじゃなかったと、思わなくもない。

宮崎市のはずれにて。
https://bn.dgcr.com/archives/2020/05/21/images/004

いや、西都市だったかな。コインランドリーの裏の壁面なのだが、ミニマルアートのようだなあ。

そうそう今回の「脳内散歩」は、これまでに紹介していた「構造美」とは違う側面で語ろうと思っていたのだが、結局、同じような話になってしまったという事実。

宮崎市内の駐車場にて。
https://bn.dgcr.com/archives/2020/05/21/images/005

こういう、ちょっとした気配にも南国感がある。人を撮ることも楽しいが、人がいた痕跡という被写体も、想像力を刺激させるよいモチーフだと思う。

宮崎県の人口は世田谷区より少し多いくらい。西米良村の人口は世田谷区の1/850くらい。世田谷区の面積は、たしか西米良村の1/25くらい。

脳内散歩はもう少し続くかな。


【さいとう・ひろし】
saito@tongpoographics.jp
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1969年生まれ。小学生のときYMOの音楽に衝撃をうけ、音楽で彼らを超えられないと悟り、デザイナーをめざす。1999年tong-poo graphics設立。グラフィックデザイナーとして、地道に仕事を続けています。