わが逃走[261]上を向く の巻
── 齋藤 浩 ──

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5月29日、ブルーインパルスが東京の空を飛んだ。

医療従事者に対し敬意と感謝を示すということで、都内上空を2周飛行。コースは、感染症指定医療機関を結ぶように設定されたようだ。

一回飛ばすのにかかる費用を考えたら、そのぶん医療従事者への手当や、防護服の費用にあてるべきだ、政権の人気取りだ、けしからんという声もある。もっともな意見である。

冷静に、理性的に考えればそのとおりなのだが、いざ「ブルーインパルスが飛ぶ!」と聞けば、カメラを持って真っ先に屋上を目指してしまうのも、また男子の性(さが)なのである。

「それはそれ、これはこれ」。というシーンを人生で何度も経験したが、これはもう、どうしようもないのだ。
私は戦争には絶対反対だが、戦闘機(実際は練習機だけど)は好きなのだ。
だって、カッコいいんだもーん。

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実際、編隊を組んだ「ブルー」が現れると、うつむいてた人々が、みんな空を見上げた。
やはり嬉しいし、実際に上を見ると気持ちまでも上向きになるからふしぎだ。

そういえば私が子どものころ、矢追純一氏が手がけた『UFOスペシャル』なるテレビ番組があった。

世界中で目撃された未確認飛行物体を特集するもので、70年代後半、それを見た小・中学生を中心に日本中にUFOブームが起きたのだ。

ピンクレディが『UFO』を歌い、焼きそばの名称が『UFO』となったことからも、その勢いは相当なものだったと想像できるだろう。

みんなが目撃者になりたかった。なので、暇さえあれば誰もが空を見上げていたのだ。

「隣のクラスの山田くんが昨日、塾の帰りにオレンジ色の謎の光を目撃したらしい」とか「5年生の奥田くん、実は宇宙人らしいよ」みたいな噂話がまことしやかに校内を駆け巡っていた。

私はといえば愛機オリンパス・ペンを使い、UFOのトリック写真撮影に励んでいたものだ。実になつかしい。

(以下、酔っ払いトークからの引用につき信憑性皆無)

で、先日とある知り合いから、興味深い話を聞いた。

彼の知り合いの知り合いの知り合いが、その仕掛け人である矢追純一氏に、当時なぜUFOに注目したかと尋ねたところ、「いやー、不景気だったから。みんなが上を向くと景気も上向きになるかなーと思って」と答えたという。

ホントかウソかはもう、どうでもいい。

これはある意味真理かもしれん、と私は酔っ払いながら思ったのだった。


【さいとう・ひろし】
saito@tongpoographics.jp
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1969年生まれ。小学生のときYMOの音楽に衝撃をうけ、音楽で彼らを超えられないと悟り、デザイナーをめざす。1999年tong-poo graphics設立。グラフィックデザイナーとして、地道に仕事を続けています。