映画と夜と音楽と…[311]楽してズルして生きていけるか?/十河 進

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シコふんじゃった。●外国力士ばかりになった国技館

去年、生まれて初めて相撲をライブで見た。両国国技館の枡席で見るという体験はまさに「百聞は一見に如かず」で感慨深いものがある。しかし、久しぶりに見たら外国籍の力士が多いので驚いた。「出身地ウランバートル」というアナウンスがしきりと響く。

僕が子供の頃、メンコ(僕らの地方ではパッチンと呼んだ)に印刷されていた人気力士は若乃花だった。当時のテレビ放送の目玉は大相撲で、「若乃花物語」という映画が封切られるくらい人気があった。戦後十年目の設定だった「泥の河」という映画でも主人公と友だちのふたりが食堂の窓からテレビの若乃花戦を覗き見るシーンがあった。

僕が小学生の頃、「少年マガジン」と「少年サンデー」が創刊になったのだが、その表紙には人気力士の朝潮がなぜかよく登場したような気がする。長嶋選手もよく登場したが、ふたりの共通項は胸毛だった。あの頃は胸毛が人気があったのだろうか。


時代の証言者〈3〉大きなヒーロー―川上哲治&大鵬幸喜その後の人気力士と言えば大鵬である。大鵬の連勝と読売巨人軍の連覇が並び称せられた頃だ。大鵬の全盛時代、僕はあまり相撲を見ていない。大学を卒業した頃は、阿佐ヶ谷近辺の相撲部屋に人気力士が集中していて、当時、阿佐ヶ谷に住んでいた僕はよく相撲取りとすれ違った。

僕が住んでいたのは花籠部屋の近くだった。部屋にも風呂はあるのだろうが、僕がいつもいっていた銭湯には花籠部屋の力士もやってきた。「黄金の左」と言われた横綱の輪島、がぶり寄りの荒瀬、輪島と同じ日大相撲部出身の魁傑など人気力士はこなかったが、兄弟子と新入りという組み合わせでよく風呂に入っていた。

いくら銭湯の湯船だといっても力士がふたりも入っていると威圧感はある。僕はその横で小さくなっていた。力士が揃って湯船から出ると一気に湯が減った。兄弟子は洗い場で座っているだけだ。新弟子らしき若者がセッセと背中を流し、髪を洗う。鬢付け油の匂いが強く漂ってきた。

青梅街道を渡れば二子山部屋があり、人気大関の貴乃花がいた。小兵ながら大きな力士に勝つ切なげな表情が女性ファンを増やしたと言われたものである。一度、僕は貴乃花が自転車に乗って走っているのを見かけたことがある。三十数年前、何度も優勝パレードが青梅街道を通った。

その貴乃花の長男と次男が成長し、横綱や大関として人気が出て若貴時代と言われた頃、「シコふんじゃった。」という映画が公開されヒットした。1992年1月のことである。少年隊を解散し、ひとりで俳優として活躍し始めた本木雅弘がまわし姿になるのも話題になったが、「シコふんじゃった。」というタイトルの軽さもヒットした要因だっただろう。

周防正行監督がやはり本木雅弘を主演にして作った「ファンシイダンス」が多いに気に入っていた僕は、「シコふんじゃった。」というタイトルを付ける感性に期待し、「絶対、おもしろい映画に違いない」と確信した。

ファンシイダンス●坊さん映画の次はお相撲さん映画だった

「ファンシイダンス」は岡野玲子のマンガを原作にしたお坊さん物語である。ロックバンドのボーカルだった主人公は実家の寺を継ぐために恋人(鈴木保奈美)と別れ、頭を丸刈りにして戒律の厳しい山寺で修行することになる。おそらくモデルは永平寺ではないかと思う。

修行とはいっても現代の若者たちである。お寺ライフの中にも様々なエピソードがあり、笑いが起こるシーンばかりが続く。同期の修行僧を演じた太めの田口浩正は、甘いものを禁じられているためトイレに隠れて羊羹の一本食いという荒技を見せてくれる。田口クンは、これで周防映画に欠かせないキャラクターになった。

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先輩の修行僧を演じた竹中直人もいつものような怪演で、オーバーアクションで笑わせてくれるし、一種の仇役を楽しそうに演じていた。竹中直人も「シコふんじゃった。」「Shall We ダンス?」と続く周防作品には欠かせない俳優である。それにしても、竹中直人は自分の監督作品では抑えた演技をするのに、他の出演作ではなぜあんなに濃いキャラクターなのだろう。

さて、「シコふんじゃった。」は、周防監督の母校・立教大学の名前を逆にした教立大学相撲部を舞台にストーリーが展開する。立教大学には長島茂雄ことミスターに関する伝説が数多く残っているらしく、映画の中でもそれらがいくつか使われるが、監督の解説によるとすべて実話だという。

「シコふんじゃった。」はフランスの詩人ジャン・コクトーが日本にきたときに堀口大學の案内で観戦した相撲について書いている文章を柄本明の教授が暗唱するシーンから始まる。その相撲を描写したコクトーの文章を見付けたときに、周防監督は「できた」と感じたそうだ。映画の芯が通ったということなのだろう。

ジャンル分けなどどうでもいいようなものだが、あえて言うと「シコふんじゃった。」は青春スポーツコメディと呼ばれる映画である。スポーツものによくある根性ドラマではないし、脳天気な青春ドラマでもない。全編がユーモラスに描かれているのは、監督の視点が客観的だからだろう。客観視しながら、暖かい視線を感じるのは周防作品の魅力のひとつだ。

シリアスな現実認識を持った上で良質なエンタテイメントを作ろうとする周防監督のスタイルは、周防監督がオマージュを捧げ続ける小津安二郎より、フランク・キャプラとの共通性を僕は強く感じる。ハートウォーミングという本来の意味をわからせてくれるフランク・キャプラ監督作品から感じるものを、僕は数少ない周防作品からも受け取るのだ。

よほど取材したのだろう、脚本はよく練られている。相撲をまったく知らない観客にも登場人物たちのセリフで様々なことが簡潔に説明される。特に清水美砂が演じたヒロインは、相撲についての知識、監督である柄本明の意図や心境、相撲部員ひとりひとりの内面までを伝える役割を担っている。

だから、心境を吐露せず黙々と稽古に励んできた主人公が、最後にせっかく決まっていた一流企業への就職を断り留年までして相撲部を存続させようとする決意を述べる「もう楽してズルするのはやめだ」というセリフが効いてくる。

楽してズルして世の中を渡っていこうとしていた主人公が相撲に懸命になることで、そうではない人間に生まれ変わる実にオーソドックスな成長物語をベースにしているが故に、「シコふんじゃった。」は感動的であり、多くの人に愛されたのである。

●自尊心を取り戻すために努力する

山本秋平は大学四年生。要領がよい遊び人だ。同級生が羨む一流企業への就職もコネで決まっている。後は単位を取って卒業するだけだ。入っているサークルもいいかげんなもので、夏はスキューバ、冬はスキーといった遊びを中心とした集まりである。

だが、ある日、指導教授に呼ばれて研究室にいくと「きみは出席率は100%だが、きみと会うのは今日が初めてだ。いい友だちを持っているかもしれないが、きみには単位はあげられない」と言われ、「相撲部員として一日、大会に出てもらえれば単位をあげる」と交換条件を持ちかけられ断れない。

柄本明演じる教授は相撲部の監督で元学生横綱だったのだ。秋平が嫌々、相撲部の部室にいくと八年留年して相撲部を守っているたったひとりの部員である青木(竹中直人)がいる。ふたりは不器用で気の弱い田中クン(田口浩正)をスカウトする。また、教授の助手の清水美砂が美少年をスカウトしてくると、それは秋平の弟の春雄である。

そんな四人がいきなり学生大会に出ても勝てるわけがなく、惨敗する。その夜、応援にきていたOBたちが開いた慰労会で、ひとりのOBが「俺は情けない。おまえらなんか死んじまえ」と怒鳴る。清水美砂が「今どきの男の子は女の子にどうやったらモテるかしか考えていないのよ」と反論し、さらにOBに侮辱された青木が泣き始める。それを見た秋平はいきなり立ち上がり「わかったよ、勝ってやろうじゃないか」と見得を切る。

だが、一時の激情で口走ったものの秋平は後悔している。勝てっこないと思っている。ラグビーの選手だったイギリスからの留学生スマイリーを加え夏の合宿に教授の実家へ出かけた彼らは、子ども相撲の子たちと勝負して全員が負けたことでプライドがさらに傷つく。しかし、監督の適切なアドバイスを受けて子どもたちに勝ち、相撲の奥深さを知る。やがて、秋の大会がやってくる。

スポーツは実力の勝負だと言われる。どんなスポーツもルールに則り、同じ条件の中で競い合い、勝者と敗者が生まれる。勝者になるためには努力するしかない。もちろん資質の問題がある。持って生まれた才能の要素が大きい。しかし、努力がそこをカバーする。

監督から適切で有効な指導を受け、教立大学のにわか仕立ての個性的なキャラクターばかりである相撲部員たちは成長する。勝つために、勝ちたいために努力する。それは自尊心を取り戻したいためだ。見返したいのである。OBから受けた屈辱、強豪の相撲部から受けた辱め、侮蔑、そして何より自分を肯定できるようになるために彼らは相撲をとる。

最初、登場したときの秋平は典型的な「いまどきの大学生」である。友人に代返を頼んで授業をさぼり、スキーだマリンスポーツだと女の子と遊び、就職前の猶予期間である大学生活をエンジョイしている。就職だって有力なコネがあれば使えばいいと思っている。早々と就職を決め、卒業までは楽しく過ごしたいと考えている。

だが、そんな青年が実力しか通用しない世界で磨かれ、「楽してズルするのはやめた」と悟るのだ。彼は生き方を学んだのだ。「楽してズルして」うまくいくこともある。だが、本当に生き抜くためには、自分の人間としてのスキルを鍛え積み重ねるしかないのだと、彼は身に沁みたのである。

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