グラフィック薄氷大魔王[628]YMO◇「坂本教授の電気的音楽講座」にハマる
── 吉井 宏 ──

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僕個人がYMOにどう影響を受けたか? を一度ちゃんと書いておきたかった。実は、結成40周年だった昨年に書き始めたのに、僕の中でYMO観はいつも微妙に変化してることもあって、まとめられなかった。なので、断片の雑記です。全4回、その3。

グラフィック薄氷大魔王[626]YMO・僕的ビッグバン前夜
https://bn.dgcr.com/archives/20190925110200.html


グラフィック薄氷大魔王[627]YMO◇「BGM」と僕らのカルチャー
https://bn.dgcr.com/archives/20191002110200.html







●自分でコントロールできる音楽

・子供の頃にピアノやってたし、吹奏楽部だったし、ブルーグラスのバンジョーやフラットマンドリンなどやってた。範囲が偏ってるものの、いくつかの楽器をやった結果、個別の楽器の演奏そのものにはあんまり深入りする気がないことに気づく。だって、複数人で演奏しないと「レコードで聴けるような完成した音楽」にならないんだもん。

・もちろんそれをやるのが「バンド」なわけだけどね。何度かバンドに入りかけた経験はあるけど、上手くやっていけると思わなかったし、音楽の趣味が全員違うしw もし音楽を作るとしたら、全部自分でコントロールできなければ気が済まなかった。

・シンセサイザーには興味があった。冨田勲が「いろんな楽器の音が出せるシンセを駆使して一人でオーケストラ」やってるのは知ってたから。多重録音とか知らなかったし、具体的にどうやって作るのかは不明だった。そんな頃、YMOブームでシンセサイザーの本やムックなどが出てくるようになった。

●坂本教授の電気的音楽講座

・FMラジオ「サウンドストリート/坂本教授の電気的音楽講座」を聴いた。第一回目の放送は1981年8月10日だそうで、YMOに目覚めて2ヶ月後くらいか。

コンピューター(というかMC-8というシーケンサー)でコントロールしたシンセ、多重録音やエフェクトによって、坂本龍一が一曲丸ごと一人で作り上げるドキュメンタリー(ニコ動やYouTube等で聴ける)。音楽ってそうやって作るんだ! 衝撃的だった。全回録音して何十回と聴いた。

・ラジカセ2台とオルガン(ピアニカも使ったかもw)を使ったピンポン録音をやってみたら、めちゃくちゃ面白い! って、熱中。

最初は畳を叩いてバスドラム、紙くずやお菓子の袋を丸めたのを叩いてスネアドラムとかw オルガンはデザイン学校でハードロックのバンドに誘われて、勢いで買ったコンボオルガン。その後、友人から単音のシンセ、KORG MS-10を譲ってもらったり。

・雑誌の「売ります買いますコーナー」で、無用の長物になりかかってたオルガンをKORG DELTAに交換。電子オルガンにシンセ的なコントロールをつけたような簡易なストリングスシンセなんだけど、和音が出せるシンセは貴重だった。

その頃、ようやく本格的なポリフォニックシンセ(KORGで言うとPoly sixやMONO/POLY)が発売され始めたけど、高くて手が出なかったから。

・同じ曲を機材を新しく入れるたびに4回も録音した。最終的に、TEACのオープンリールの4chマルチトラックデッキ(MTR)と、ミキサーやエフェクタなど機材一式を購入。その後も何度か機材を買い換えたため、ずいぶん後までローンに苦しむことにw

・1997年、メディアアーティスト岩井俊雄×坂本龍一のコラボコンサートに行ったとき、たまたま楽屋に入れてもらって坂本氏と一瞬だけ会話したことがある。「電気的音楽講座」にハマって宅録やって、ローンが大変だったことを話したら苦笑いしてたw そういう人、多いんだろうな。

・この宅録環境でYMO関連の曲は「Mass」などいくつか試しに作ったくらいで、「スイッチト・オン・バッハ」の方向に行っちゃうんだけどね。

デザイン事務所に入って5年くらい、忙しくてほとんど何もできなかった。上京直前の88年くらいに、例のPWL(バナナラマ、デッド・オア・アライブ、カイリー・ミノーグ、リック・アストリーなど)の打ち込み系音楽にハマり、カセット式MTRやデジタルシンセなど機材を一新したものの、数曲作っただけで上京時に全部手放した……。

・音楽制作は中途半端な遊びに終わったけど、「電気的音楽講座」と宅録経験の僕にとっての収穫は、「制作過程は作品そのものより面白い!」だった。

玄光社「イラストレーション」誌の「How to Draw」という下地もあったけど、一つの作品を作っていく途中の過程や作者の迷いや判断など含め、めちゃくちゃ面白い。それが後年、Painterの解説本や記事で、「イラストの制作過程を見せる」に繋がった。

・っていうか、今でもフィギュアとか立体制作の、何週間にもわたる制作過程をリアルタイムでFacebookやブログなんかにアップしてたりする。何かがだんだん出来ていくのを見るのは、誰にとっても面白いはずだ! という思い込みかもしれんけど。

・音楽制作は15年くらい前にReasonやGarageBandによって再開。コピーでない自分の曲を2ダースくらい作ったけど、いつのまにか遠のいちゃった。時々発作的にやりたくなって、アプリや入力用MIDIキーボードなど買い込んだりするけど、ちゃんと作るところまで行かずに醒めちゃう。

●テクノロジーを駆使!

・YMOがコンピュータを制作のツールとして、駆使する姿勢にもあこがれた。僕の制作といえば「アクリル絵具で紙にイラストを描く」だったから、ハイテクの入り込む余地なしw 当時は「コンピュータを制作に活かす」はどうやるのか見当もつかなかった。

80年代半ば、Quantel Paintboxという1億円すると噂のシステムを使い、有名イラストレーターたちが試作してるのを知って、これだ! と思った。そのうちきっと安くなるだろう。

・だから、Macに飛びつくのは早かった。1992年夏だから、個人のイラストレーターとしてはかなり早かったはず。1990年にはカタログを入手してたけど、まったくの高嶺の花だった。田町の駅近くにあったApple専門店も、高級感あって入りにくかった。

・Mac導入の直接のきっかけは、仕事でややこしいカリグラフィー風のロゴのラフを提出したところ、「急いでるのでこちらでトレースしておきますね」って言われ、帰宅したらもう完成ロゴがFAXされていた!

丸一日かかると思ってたのに! もうロットリングと雲型定規では太刀打ちできない、と、翌日、虎ノ門のMac販売店に駆けつけたのだった。ちょうどIIciが大幅値下げされたタイミング。

・ペンタブ導入もMacと同時。Photoshopでアナログ風の絵が描けるとは思ってなかったけど、絵具でマチエールを作って、スキャン、スタンプツールで移植しながら描けそうだと目論んでた。

結局、数ヶ月後にPainterを手にして、「コンピュータでアクリル絵具のように描く」が実現するのだった。


【吉井 宏/イラストレーター】
HP  http://www.yoshii.com

Blog http://yoshii-blog.blogspot.com/


来週はいよいよYMO最終回の、「どの曲がいちばん好き? 問題」について。ペンタブやアプリその他で書き溜めた普段ネタが、賞味期限切れになりそう。

◯Studio City Macauのデコレーション展示中
https://bit.ly/30olPNF


○吉井宏デザインのスワロフスキー、7月半ばに出た新製品4つ。

・幸運の象 LUCKY ELEPHANTS
https://bit.ly/30RQrqV


・HOOT HAPPY HALLOWEEN 2019年度限定生産品
https://bit.ly/2JZVVcm


・SCS ペンギンの赤ちゃん PICCO
https://bit.ly/2JStbC4


・SCS ペンギンのおばあちゃん
https://bit.ly/2YbmnJ7