デザイナーの増井くん(仮名・20代/男性)から、約五年間の長きにわたって「仮面ライダークウガは面白いから是非見てください」と言われ続けたのだが、仕事が忙しいのとヒーロー物にハマった経験もなかったのでつい見る機会を逸していたというか…。
そんなある日、何気なく立ち寄ったレンタルビデオ屋で「クウガ」を見つけ、たまたま仕事が0.1段落したところだったし、オダギリジョーも結婚したことだし(クウガはオダギリジョー主演なのだ)ってことで見てみることにした。で、ハマってしまったのだ。
ひと言でいえば、スゴイです。ナゾ解き、スリル、アクション。どれをとってもレベル高し。にもかかわらず、きちんと人間ドラマになってる。2000年の作品? もっと早く見るべきだったー。くそう。8年遅れでハマったのか。なんかかっこ悪いっす。
そんなある日、何気なく立ち寄ったレンタルビデオ屋で「クウガ」を見つけ、たまたま仕事が0.1段落したところだったし、オダギリジョーも結婚したことだし(クウガはオダギリジョー主演なのだ)ってことで見てみることにした。で、ハマってしまったのだ。
ひと言でいえば、スゴイです。ナゾ解き、スリル、アクション。どれをとってもレベル高し。にもかかわらず、きちんと人間ドラマになってる。2000年の作品? もっと早く見るべきだったー。くそう。8年遅れでハマったのか。なんかかっこ悪いっす。
オダギリジョーが「時効警察」とほとんど変わらない演技でイイ。これって、彼の地なんでしょうか。たまたま「仮面ライダー」というフォーマットに基づいているけど、従来のジャンルには収まりきらない作品ですよ、これは。私の脳内にある『ヒーローもの=勧善懲悪ワンパターン』という図式が一気に崩壊しました。
遅すぎた悟りです。増井くんごめんなさい。オレが悪かった。で、1巻借りてきてすぐに2、3巻見て、さあ続きを! ってところまでは良かったのだが、それ以降は残念ながら貸し出し中。うーん、続きが気になるよう……と地団駄踏んでいると、クウガの隣の棚に目が止まった。
『秘密戦隊ゴレンジャー』。おお、懐かしい。私が幼稚園でアカバネミワ(仮名)にいじめられて苦しんでいた頃(このあたりは、わが逃走第2回・ヘクソカズラに捧ぐの巻 を参照のこと)、この番組から生きる勇気をもらったんだかどうだかは覚えてないけど、とにかく大好きだった番組のひとつである。
< https://bn.dgcr.com/archives/20070712140200.html
>
当時の仮面ライダーのスタイリングが、シリーズごとに装飾的になってゆくのに対し、ゴレンジャーは幼稚園生でも描けるくらいシンプルでポップなデザイン。それでいて人数は5倍。ライダーよりも得した感じで好きだったと記憶している。
で、借りてみた。そしたらこんどは、クウガとは真逆の魅力にハマってしまったのだ。
1●ヒーロー物のフォーマットを検証する
複数の主人公を毎回ひとりずつフィーチャーし、それそれの個性を活かして事件を解決する、というような番組はすでにあった。『ガッチャマン』もそうだし、『太陽にほえろ!』等の刑事物にしたってそうだ。
そんな構成のドラマを、もっと小さな子供にもわかりやすく伝えるにはどうすればいいか。そこで導き出されたのが『色彩と記号による情報の整理』だったんだと思う。
当時仮面ライダー1号と2号が一緒に出てきたときは戸惑ったものだ。5歳のオレは、どっちが1号でどっちが2号だかわからなくなってしまったのだ。幼稚園で友人に尋ねるも、袖のラインが2本が1号で1本が2号とか、手袋が赤いのが2号だとか、どうも情報が錯綜していてどの説にも信憑性がない(ちなみに、今も判別法を知らない)。しかし、ゴレンジャーはイッパツでわかるのだ。
赤いスーツがアカレンジャー。「∞」のマスク、武器は鞭。熱血漢。
青いスーツがアオレンジャー。「↑」のマスク、武器は弓矢。ニヒルな二枚目。
黄色いスーツがキレンジャー。「−」のマスク、武器は棒。カレー好きの怪力男。
ピンクのスーツがモモレンジャー。「ハート」のマスク、武器は爆弾。紅一点。
緑のスーツがミドレンジャー。「V」のマスク、武器はブーメラン。すばしっこい弟キャラ。
ちなみに、それぞれの武器はマスクの目にあたる記号部分から出てくる。ミドレンジャーなら「V」からブーメランが出てくるという構造になっている。明確な色彩と記号化、そしてシンプルなネーミングが、5人ものキャラクターの判別をいともたやすいものにしてしまった。だからこそ視聴者(この場合は5歳のオレ)は安心してストーリーに没頭できた訳だ。なるほどねー。30年以上も前の作り手側の手腕に、今更ながらまいってしまう。
2●怪人の造形センスがスゴイ
正義の味方がシンプルなら、悪役もいたってシンプル。毎回登場して毎回やられてしまう怪人達は、唐突なモチーフで唐突なデザインのものが多い。たとえば頭が軍艦の形をしている「軍艦仮面」や、同じく頭が石油ストーブの形をしている「ストーブ仮面」等。ちなみに、体は全身タイツにマント。ストーブ仮面に至っては灯油ポンプの形をした武器まで持つ徹底ぶり。もはやシンプルというよりシュールである。
登場から30年以上経た今でこそ、一層の輝きを見せる造形センス。その存在はもはや芸術の域に達していると言っても過言ではない。しかも、ばかばかしい程にモチーフに徹した各怪人の言動や性格など、見た目だけでなくその形状に意味を持っているのだ。すげえ。
特にスゴかったのが「機関車仮面」。黒の全身タイツに頭がSL。腰につけた巾着には石炭が入っている。煙突から黒煙をふかしながら、機関車ごっこの手振りとともに「シュッシュッポッポ」と叫びながら都内を走り回るのだ。特に新宿高層ビル街を走る様子をロングショットで捉えたカットは秀逸。中の人の根性には頭が下がる。
結局最後は、ゴレンジャーに上り坂におびき寄せられて倒されてしまう。ナレーター曰く「SLは勾配に弱い」という知識がもたらした勝利なんだそうだ。これもスゴすぎ。「私の時代は終わったー」と叫んで爆発した機関車仮面。鉄道好きとしてはちょっとカワイソウな気がしてしまう。たいして悪いことしてないのに。
3●ロケ地と爆発シーンがスゴい。
私はいわゆる「近代化遺産」と呼ばれるものが好きだ。黒部第2ダム、稚内防波ドーム、梅小路機関区に八幡製鉄所。機能と美しさを兼ね備えた建造物を見ていると、無性に創作意欲がわいてくるのだ。
で、ゴレンジャーだが、ロケ地がいちいちカッコいい。ダム、鉄橋、工場、モダンなコンクリート建築、団地、造成地、採石場…。思わず身を乗り出して画面に見入ってしまう。そうかー。すでにこの時点で美意識(?)を刷り込まれていたのだね。
今ではけっこう撮影規制が厳しいと思われる浄水場や、閉園してしまった遊園地等も登場し、爆破シーンがドッカンドッカンと続く。そう、この爆破シーンがまたスゴイのだ。今から30年前、当然CGなんかないから爆破は合成ではなくホンモノである。だよね??
戦ってるすぐそばで、無節操なまでに爆発するのだ。あぶないなあ。ただでさえ視界の悪い仮面なんかかぶっての撮影なんだから、一歩間違えば死ぬじゃん。そんな心配をよそに戦いは続く。いや、まいった。すごい迫力です。
4●キレのある見得ポーズと画面構成
「アカレンジャー!」
「アオレンジャー!」
「キレンジャー!」
「モモレンジャー!」
「ミドレンジャー!」
「五人揃って、ゴレンジャー!!」
と、いちいち自己紹介して、ポーズを決めてから戦い始める我らがゴレンジャーなのだが、回を追うごとにポーズが洗練されてくるのが面白い。後半になると、もはや組体操的な美しさである。芸術点上がりまくり。そして、それを追うカメラワークも秀逸なのだ。
埠頭の貨物コンテナの上で見得を切るシーンを例にとると、テレビの画面を7対2対1の比率で美しくコンテナのラインで分割し、7の部分に5人が均等な大きさで斜めに配列されるという、徹底した構図。子供番組だからこそ妥協を許さない、そんな作り手の心意気が伝わってくる。やはりプロの仕事は“伝わる”のだ。
以上、年甲斐もなくハマったことをはずかしながら公表いたした次第。今回はとりあえず第一印象を一気に語らせていただきましたが、全話見終わったあかつきには、よりディープなゴレンジャー話をさせていただきたく存じます。あ、クウガもね。
そんな訳で、子供時代の視点と同時に、こんどは作り手側の視点に立ってヒーロー物を見てみると、クリエイティブの神髄が見えてきた。“ものづくり魂”を持つものからは、たくさんのヒントを得られるのだ。
ゴレンジャー見てひらめいたアイデアでカッチョイイポスターを作ってナントカ国際ポスタービエンナーレで賞とっちゃったらどうしよう??
今日も妄想するオレはもう38歳。人生って楽しい。
【さいとう・ひろし】saito@tongpoographics.jp
1969年生まれ。小学生のときYMOの音楽に衝撃をうけ、音楽で彼らを超えられないと悟り、デザイナーをめざす。1999年tong-poo graphics設立。グラフィックデザイナーとして、地道に仕事を続けています。
< http://www.c-channel.com/c00563/
>
遅すぎた悟りです。増井くんごめんなさい。オレが悪かった。で、1巻借りてきてすぐに2、3巻見て、さあ続きを! ってところまでは良かったのだが、それ以降は残念ながら貸し出し中。うーん、続きが気になるよう……と地団駄踏んでいると、クウガの隣の棚に目が止まった。
『秘密戦隊ゴレンジャー』。おお、懐かしい。私が幼稚園でアカバネミワ(仮名)にいじめられて苦しんでいた頃(このあたりは、わが逃走第2回・ヘクソカズラに捧ぐの巻 を参照のこと)、この番組から生きる勇気をもらったんだかどうだかは覚えてないけど、とにかく大好きだった番組のひとつである。
< https://bn.dgcr.com/archives/20070712140200.html
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当時の仮面ライダーのスタイリングが、シリーズごとに装飾的になってゆくのに対し、ゴレンジャーは幼稚園生でも描けるくらいシンプルでポップなデザイン。それでいて人数は5倍。ライダーよりも得した感じで好きだったと記憶している。
で、借りてみた。そしたらこんどは、クウガとは真逆の魅力にハマってしまったのだ。
1●ヒーロー物のフォーマットを検証する
複数の主人公を毎回ひとりずつフィーチャーし、それそれの個性を活かして事件を解決する、というような番組はすでにあった。『ガッチャマン』もそうだし、『太陽にほえろ!』等の刑事物にしたってそうだ。
そんな構成のドラマを、もっと小さな子供にもわかりやすく伝えるにはどうすればいいか。そこで導き出されたのが『色彩と記号による情報の整理』だったんだと思う。
当時仮面ライダー1号と2号が一緒に出てきたときは戸惑ったものだ。5歳のオレは、どっちが1号でどっちが2号だかわからなくなってしまったのだ。幼稚園で友人に尋ねるも、袖のラインが2本が1号で1本が2号とか、手袋が赤いのが2号だとか、どうも情報が錯綜していてどの説にも信憑性がない(ちなみに、今も判別法を知らない)。しかし、ゴレンジャーはイッパツでわかるのだ。
赤いスーツがアカレンジャー。「∞」のマスク、武器は鞭。熱血漢。
青いスーツがアオレンジャー。「↑」のマスク、武器は弓矢。ニヒルな二枚目。
黄色いスーツがキレンジャー。「−」のマスク、武器は棒。カレー好きの怪力男。
ピンクのスーツがモモレンジャー。「ハート」のマスク、武器は爆弾。紅一点。
緑のスーツがミドレンジャー。「V」のマスク、武器はブーメラン。すばしっこい弟キャラ。
ちなみに、それぞれの武器はマスクの目にあたる記号部分から出てくる。ミドレンジャーなら「V」からブーメランが出てくるという構造になっている。明確な色彩と記号化、そしてシンプルなネーミングが、5人ものキャラクターの判別をいともたやすいものにしてしまった。だからこそ視聴者(この場合は5歳のオレ)は安心してストーリーに没頭できた訳だ。なるほどねー。30年以上も前の作り手側の手腕に、今更ながらまいってしまう。
2●怪人の造形センスがスゴイ
正義の味方がシンプルなら、悪役もいたってシンプル。毎回登場して毎回やられてしまう怪人達は、唐突なモチーフで唐突なデザインのものが多い。たとえば頭が軍艦の形をしている「軍艦仮面」や、同じく頭が石油ストーブの形をしている「ストーブ仮面」等。ちなみに、体は全身タイツにマント。ストーブ仮面に至っては灯油ポンプの形をした武器まで持つ徹底ぶり。もはやシンプルというよりシュールである。
登場から30年以上経た今でこそ、一層の輝きを見せる造形センス。その存在はもはや芸術の域に達していると言っても過言ではない。しかも、ばかばかしい程にモチーフに徹した各怪人の言動や性格など、見た目だけでなくその形状に意味を持っているのだ。すげえ。
特にスゴかったのが「機関車仮面」。黒の全身タイツに頭がSL。腰につけた巾着には石炭が入っている。煙突から黒煙をふかしながら、機関車ごっこの手振りとともに「シュッシュッポッポ」と叫びながら都内を走り回るのだ。特に新宿高層ビル街を走る様子をロングショットで捉えたカットは秀逸。中の人の根性には頭が下がる。
結局最後は、ゴレンジャーに上り坂におびき寄せられて倒されてしまう。ナレーター曰く「SLは勾配に弱い」という知識がもたらした勝利なんだそうだ。これもスゴすぎ。「私の時代は終わったー」と叫んで爆発した機関車仮面。鉄道好きとしてはちょっとカワイソウな気がしてしまう。たいして悪いことしてないのに。
3●ロケ地と爆発シーンがスゴい。
私はいわゆる「近代化遺産」と呼ばれるものが好きだ。黒部第2ダム、稚内防波ドーム、梅小路機関区に八幡製鉄所。機能と美しさを兼ね備えた建造物を見ていると、無性に創作意欲がわいてくるのだ。
で、ゴレンジャーだが、ロケ地がいちいちカッコいい。ダム、鉄橋、工場、モダンなコンクリート建築、団地、造成地、採石場…。思わず身を乗り出して画面に見入ってしまう。そうかー。すでにこの時点で美意識(?)を刷り込まれていたのだね。
今ではけっこう撮影規制が厳しいと思われる浄水場や、閉園してしまった遊園地等も登場し、爆破シーンがドッカンドッカンと続く。そう、この爆破シーンがまたスゴイのだ。今から30年前、当然CGなんかないから爆破は合成ではなくホンモノである。だよね??
戦ってるすぐそばで、無節操なまでに爆発するのだ。あぶないなあ。ただでさえ視界の悪い仮面なんかかぶっての撮影なんだから、一歩間違えば死ぬじゃん。そんな心配をよそに戦いは続く。いや、まいった。すごい迫力です。
4●キレのある見得ポーズと画面構成
「アカレンジャー!」
「アオレンジャー!」
「キレンジャー!」
「モモレンジャー!」
「ミドレンジャー!」
「五人揃って、ゴレンジャー!!」
と、いちいち自己紹介して、ポーズを決めてから戦い始める我らがゴレンジャーなのだが、回を追うごとにポーズが洗練されてくるのが面白い。後半になると、もはや組体操的な美しさである。芸術点上がりまくり。そして、それを追うカメラワークも秀逸なのだ。
埠頭の貨物コンテナの上で見得を切るシーンを例にとると、テレビの画面を7対2対1の比率で美しくコンテナのラインで分割し、7の部分に5人が均等な大きさで斜めに配列されるという、徹底した構図。子供番組だからこそ妥協を許さない、そんな作り手の心意気が伝わってくる。やはりプロの仕事は“伝わる”のだ。
以上、年甲斐もなくハマったことをはずかしながら公表いたした次第。今回はとりあえず第一印象を一気に語らせていただきましたが、全話見終わったあかつきには、よりディープなゴレンジャー話をさせていただきたく存じます。あ、クウガもね。
そんな訳で、子供時代の視点と同時に、こんどは作り手側の視点に立ってヒーロー物を見てみると、クリエイティブの神髄が見えてきた。“ものづくり魂”を持つものからは、たくさんのヒントを得られるのだ。
ゴレンジャー見てひらめいたアイデアでカッチョイイポスターを作ってナントカ国際ポスタービエンナーレで賞とっちゃったらどうしよう??
今日も妄想するオレはもう38歳。人生って楽しい。
【さいとう・ひろし】saito@tongpoographics.jp
1969年生まれ。小学生のときYMOの音楽に衝撃をうけ、音楽で彼らを超えられないと悟り、デザイナーをめざす。1999年tong-poo graphics設立。グラフィックデザイナーとして、地道に仕事を続けています。
< http://www.c-channel.com/c00563/
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