●先行する名作の有名なシーンをなぞるデ・パルマ監督
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「ドリーマーズ」の中でヒロインのイザベラは「私は1959年にシャンゼリゼの舗道で生まれた」と言い、「最初に発した言葉は『ニューヨーク・ヘラルド・トリビューン』」と大声をあげる。その瞬間、ゴダールの「勝手にしやがれ」のジーン・セバークがニューヨーク・ヘラルド・トリビューンを売り歩くシーンが挿入されるのだ。
「ドリーマーズ」の時代設定は1968年である。大学生であるイザベルの生まれが1959年であるはずがない。それが「勝手にしやがれ」が撮影された年であり、あの有名な「ニューヨーク・ヘラルド・トリビューン」を売る声を知らないと、見ている方は混乱してしまう。この映画は、観客に映画的知識を要求する。
イザベラのセリフは、ベルトルッチ本人のものだと思う。「勝手にしやがれ」の公開当時、ベルトルッチは18か19歳。その映画から、全身に電流が流れたほどのショックを受けたに違いない。早くから詩人として認められていたという青年である。その鋭敏な感受性にヌーヴェル・ヴァーグの映像が与えた影響は大きかったはずだ。
●「俺は最低だ!」とジャン・ポール・ベルモンドになりきる
アメリカ人の20歳の青年マシューは、フランスに留学している。映画狂の彼は、毎日のようにシネマテークに通う。1968年の春、シネマテークの創設者アンリ・ラングロアを文化相アンドレ・マルローが追放した事件を発端にして、映画ファンたちが抗議集会を行う。そのとき、映画狂たちをアジテートするトリュフォーやジャン・ピエール・レオーの実写フィルムが挿入される。
その混乱の中で、マシューはフランス人の双子の姉弟と仲良くなる。イザベルとテオは作家の父を持つ仲のよい姉弟だ。彼らは父母が一ヶ月ほど旅行でいなくなるので、学生ホテル住まいのマシューを自宅に招く。三人の生活が始まる。イザベルもテオも、突然、映画のセリフをしゃべり出したり、何かの映画の真似を始めたりする。それが何の映画かを当てるのが彼らのゲームだ。マシューはほとんどの映画を当て、彼らの同志として受け入れられる。
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そのルーブル美術館を駆け抜けるシーンが素敵だ。モノクロームの「はなればなれに」のシーンとカラーで撮影されたマシュー、イザベル、テオのシーンが短いカットでつながれる。カメラアングル、人物のアクションなどが見事につながっているのに感心する。彼らは9分28秒で走り抜け、「17秒の記録更新だ」と喜び合う。マシユーはすっかり彼らのペースに取り込まれる。
ある日、イザベルが仕掛けた映画がわからなかったテオは、イザベルに罰ゲームとして目の前でのマスターベーションを命じられる。マシューは彼らの異常さに気付く。さらに、彼らが同じベッドに裸で抱き合うようにして寝ているのを覗き見る。そして、とうとうテオの仕掛けた映画ゲームでイザベルが負けたとき、テオは罰ゲームとして「僕の前でマシューとセックスしろ」とイザベルに命じる。
「ドリーマーズ」はテオを演じたルイ・ガレルもいいけれど、陰毛はおろか性器さえ晒してエキセントリックに熱演したイザベル役のエヴァ・グリーンが印象的だった。美しいというより、その独特の視線を放つ両の目に惹き付けられる。「ドリーマーズ」を見たジョルジョ・アルマーニもそう思ったらしく自社のモデルに起用し、リドリー・スコット監督に推薦したという。

調べて驚いたのだが、エヴァ・グリーンの母親はマルレーヌ・ジョベールだという。マルレーヌ・ジョベールは「男性・女性」にも出演していたけれど、日本でヒットした主演作はルネ・クレマン監督の「雨の訪問者」(1970年)だった。「さらば友よ」でブレークしたチャールズ・ブロンソンが、そのままヨーロッパで主演をしていた頃の映画である。
●怪しい官能の世界に入っていく思わせぶりな映画
「ドリーマーズ」は、ベルナルド・ベルトルッチ作品がすべてそうであるように、次第に怪しい官能の世界に入っていく思わせぶりな映画だった。常識的でスクエアな優等生だったマシューは、双子の姉弟によって異世界を体験させられる。正直に言うと、ベルトルッチ作品は意味ありげなくせに難解で、僕はよくわからないことが多いのだが、その画面の美しさや充実度は比類がない。
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しかし、僕は「ラストタンゴ・イン・パリ」はさっぱり訳がわからなかったし、何の感銘も受けなかった。唯一、印象に残ったのは主題曲である。アルゼンチン出身のテナーサックス奏者ガトー・バルビエリが作曲した単純なテーマだが、音階が次第に上がっていく哀愁に充ちた展開で僕の愛聴曲になった。今でも、様々なジャズ・プレイヤーが演奏している。
アルベルト・モラヴィアの小説を映画化した「暗殺の森」はイタリアのファシズムの時代を描き、誠に美しい映像を見せてくれた。撮影監督ビットリオ・ストラーロの名人芸だ。これほど美しく官能的な映像を僕は見たことがない。官能的であるが故に、どことなく頽廃が漂い、映像の持つ力が緊張感あふれるサスペンスを生み出すのだ。
ファシズムに反対しパリに亡命している元恩師の教授暗殺を命じられたファシスト党に加盟する主人公(ジャン・ルイ・トランティニアン)は、新妻(ステファニア・サンドレッリ)を伴ってかつての恩師を訪ねる。教授の若い妻(ドミニク・サンダ)は彼の意図を見抜きながら、彼と深い関係になる。そんな複雑な関係の彼らが一緒に踊るダンスホールのシーンは、映画史に残る美しさだ。
赤いタングステンの光が世界を覆い、濃紺の夜空が背景を彩る。華やかにライティングされたダンスホール。ドミニク・サンダもステファニア・サンドレッリも、この世のものではないほど美しく輝いている。くっきりとしたコントラストと輪郭のはっきりしたライティングによって描かれる美女たちを、ストラーロのキャメラが艶めかしく映し出す。耽美的であり、蠱惑的である。何かが起こる予感でゾクゾクしながら、深みのある映像の美しさに浸れる。
そのシーンと対照的なのは、雪の降り積もった森の中の暗殺シーンだ。主人公は教授夫妻の乗ったクルマを追う。やがて深い森の中へ。教授を暗殺しようとする男たちがクルマを停め、教授夫妻を引きずり出す。目を覆いたくなるような凄惨でリアルな殺人現場が美しい映像で描かれる。白い雪、暗く深い緑の森、クルマのライト、飛び散る真っ赤な血…、それを目撃している主人公にその光景がくっきりと刻み込まれる。
ベルトルッチ映画はどれも思わせぶりで意味ありげだが、意味を理解しようとせず映像を体験すれば何かが伝わってくる。それも、かなり深い部分に響いてくる。だが、謎は謎として残る。救いを求めるドミニク・サンダを黙って見つめ見殺しにするトランティニアンの心理…、それは30数年を経ても未だに僕にとってはあの暗い森のように深い深い謎なのだ。
【そごう・すすむ】sogo@mbf.nifty.com

●305回までのコラムをまとめた二巻本「映画がなければ生きていけない1999-2002」「映画がなければ生きていけない2003-2006」が第25回日本冒険小説協会特別賞「最優秀映画コラム賞」を受賞しました。
< http://www.bookdom.net/suiyosha/1400yomim/1429ei1999.html
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受賞風景
< http://homepage1.nifty.com/buff/2007zen.htm
>
< http://buff.cocolog-nifty.com/buff/2007/04/post_3567.html
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- 映画がなければ生きていけない 1999‐2002
- 十河 進
- 水曜社 2006-12-23
- おすすめ平均

特に40歳以上の酸いも甘いも経験した映画ファンには是非!
ちびちび、の愉悦!
「ぼやき」という名の愛
第25回日本冒険小説協会 最優秀映画コラム賞
すばらしい本です。
by G-Tools , 2009/06/05
