●印象的な母親役が続いた夏川結衣
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「歩いても歩いても」は、原田芳雄と樹木希林が演じる両親の家に長女(YOU)一家と次男(阿部寛)一家が帰ってくるところから映画が始まる。15年前に少年を助けようとして海で溺死した長男の命日である。次男は何かにつけて出来のよかった兄にコンプレックスを感じている。そのため、町医者だった父親とも気持ちがすれ違ってばかりだ。
母親は「何も子持ちの未亡人と結婚しなくても…」と長女を相手に愚痴るものの、次男の一家が帰ってくると「まあまあ暑い中を…」とそつがない。血のつながらない孫にもにこやかに話しかける。そこは、まあ、大人の対応なのだが、日常的な言葉のやりとりの中でフッと本音が覗いたりする。それを次男の妻は鋭く気付く。しかし、笑顔は絶やさない。
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夏川結衣の役は、あまりエキセントリックに演じてもいけないし、どっしりと構えてしまうと単なる鈍感な女になってしまうので、やりにくかったのではないだろうか。長男が死んで、そのためか余計に期待をかけてしまった次男は父親の跡を継がず家を出てしまい、勝手に子持ちの未亡人と結婚した。その両親の思いを、彼女は感じざるを得ない。
親としては、やはり未亡人が次男をたぶらかしたのだと心の隅では思っているだろう。そう両親が感じているだろうという想像力は働かせる女だが、だからといって神経をピリピリさせているわけではない。受け取り方によってはイヤミに聞こえる母親の言葉も、笑ってすませるくらいの大人の女だ。そんな女が一度だけ、夫の母親への不満を口にする。
母親は、夫のために新しいパジャマを用意していた。そのパジャマを手にして「どうせなら私のも用意してくれたって…」と彼女は初めて漏らす。それは、一日、こらえていた気持ちを吐き出すキッカケにしか過ぎなかったのだが、パジャマの件で彼女は母親の自分への気持ちを顕わに感じて口にする。母親の前でニコニコと微笑んでいた笑顔はない。女の凄みのようなものを僕は感じた。うまい女優だと改めて思った。
だが、「天然コケッコー」と「歩いても歩いても」の夏川結衣を見て、僕の印象はずいぶん変わった。若い頃は不幸の影を感じさせ儚げだったが、優しい美貌の下に夜叉の激しさを抱えた女に変貌した。したたかさや強さを感じるのだ。もっとも、したたかさは昔から彼女の中にあったものだ。どっしりした存在感を加えたのは、年月を重ねた結果だろう。
●和製フィルム・ノアールの巨匠となった石井隆監督
石井隆監督は馳星周さんなどが書くノワール小説と呼ばれるジャンルの物語を映像化するとピッタリのような気がするが、石井監督の方がその分野では先達だったのだ。劇画「天使のはらわた」が評判になったのは70年代のことだった。劇画誌に掲載されたそれを僕は読んだことがあるが、あまりにエロチックだったのと、女性が凌辱されるシーンが苦手なので一度読んだだけだった。
ただ、石井隆さんが描く名美というヒロインの名は刻み込まれた。その後、日活ロマンポルノで「女高生 天使のはらわた」(1978年)として映画化され、大学の先輩で役者になった河西健司さんがミスタースリム・カンパニーの仲間たちと出ていたので僕は封切りで見にいった。河西さんは狂気がかった演技でよかったし、映画も悪くはなかった。
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●聖なる美女である名美が性的な地獄巡りをする
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僕は、石井作品から伝わってくる「男と女の間に流れるどうしようもない切なさ」が好きなのだが、凌辱シーンや血まみれの猟奇的な殺人シーンが苦手で、正直に言うと時々は目をそらせたくなる。「夜がまた来る」でも、途中で「もういいじゃないか。そこまでやらなくても」と思ったことは何度もあった。
「夜がまた来る」は、銃把のアップに永島敏行が「夜がまた来る。思い出つれて…」と歌う「さすらい」が重なるシーンから始まる。銃把にハートマークを描いているのは太股も露わな夏川結衣が演じる名美だ。夫らしい永島敏行が裸でベッドに寝ている。永島敏行が口笛で「さすらい」を吹き、名美に「夜、口笛を吹くと不吉よ」とたしなめられる。
永島敏行は麻薬Gメン。潜入捜査に入るが、すぐに射殺死体となってどぶ川に浮かぶ。彼は麻薬を横流しした疑いをかけられ、葬儀の後、ヤクザたちがやってきて家捜しする。男たちにレイプされた喪服の名美はとがった夫の骨で手首を切るが、誰かに救われる。回復した名美は夫が潜入した暴力団の会長(寺田農)の命を狙い、組の幹部である村木(根津甚八)に止められる。再び自殺しようと入水した名美を救ったのも村木だった。
しかし、名美は諦めない。会長が通う銀座のクラブにホステスとして入り、自分の肉体をエサに会長に近づく。だが、ベッドで眠る会長を刺したものの殺すことはできず、子分(椎名桔平)たちになぶり者にされ、拷問を受ける。その名美のために、村木は自分の指を詰めてまで命乞いをする。だが、名美は千葉の場末の港町の歓楽街に送られ、シャブ漬けにされ客を取らされる。
千葉の場末まで、村木は名美を探してやってくる。だが、名美はシャブがなければ生きていけない女にされていた。名美を救い出し、村木は東京へ車を走らせる。だが、名美が「シャブくれよう」と暴れだす。ハンドルを奪おうとする。海辺で停まった車から飛び出す。「シャブくれよう」と叫びながら海へ入ろうとする名美を村木が抱きしめる。村木の目が悲しみを湛えている。
このあたりから、たまらないほどの切なさが漂い始める。村木はなぜ、それほど名美を救おうとするのか。シャブ漬けになり数え切れない男たちに犯されてきた女を、なぜそれほど悲しみに充ちた目で見つめるのか。根津甚八がいい。拒否されても、はねつけられても名美を救おうとする村木の静かな悲しみが伝わってくる。
村木は組が管理する建設途中のままになっているビルの地下に名美を閉じ込め、シャブを抜こうとする。体を洗う水をバケツに汲み、コンビニで買った弁当の袋を抱えて、村木は地下室へ入る。広い地下室の隅で名美が布団にくるまって震えている。「シャブくれよ」と叫ぶ。
村木が差し出した弁当を投げる。村木が拾って戻す。名美が投げる。村木が拾う。それは延々と続く。村木は何も言わず、名美が投げる弁当を拾い続ける。静かに「食べろ」と言うだけの村木の姿から、名美への深いいたわりが伝わってくる。
映画全体の中でも、地下室の二人のシーンはかなり長い。そろそろシャブが抜けたかと思うと、目覚めた村木の目の前に立った名美は股間を広げ「何でもするからさあ、シャブくれよう」と誘惑する。そんな名美を見つめる村木の悲しみ。村木は耐える。慈しむ。まるで兄か父親のようだ。ヤクザの幹部なのに、なぜ村木はそこまで名美をかばい続けるのか。
ここまでくれば、どんな観客にもわかるはずだ。この映画が名美と村木の切ない愛の物語だと…。村木は自分の命を棄ててもいいほどに、名美を深く深く愛している。シャブの抜けた名美が「イヤですよね、何十人、何百人と寝たカラダ。男たちのがカラダの中にいっぱい溜まってるもんね」と言う。そのとき、村木は「いや」と首を振り、「綺麗だよ、誰よりも…」とつぶやく。
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リーダー格の役は余貴美子だった。雨の夜、ビルの壁面を登ってゆくゴンドラに両足を開いてすっくと立ち、両手を伸ばして拳銃を構える余貴美子の逆光の姿が忘れられない。ラストシーン、やはり雨の夜。ネオンが映る街角で、余貴美子と並んで拳銃を撃つ夏川結衣の姿も甦る。儚さを漂わせる美貌の女が持つしたたかさが身に沁みた。
【そごう・すすむ】sogo@mbf.nifty.com
四国から東京に帰ってきた途端に梅雨が明け、暑い毎日。ああ、それなのにオフィスのエアコンが壊れてしまいました。僕のいる部屋にはサーバ類がラックに入って設置されていて、24時間、熱を発し続けている。エアコン交換にどれくらい待たされるのだろうか。まいったなあ。
●305回までのコラムをまとめた二巻本「映画がなければ生きていけない1999-2002」「映画がなければ生きていけない2003-2006」が第25回日本冒険小説協会特別賞「最優秀映画コラム賞」を受賞しました。
< http://www.bookdom.net/suiyosha/1400yomim/1429ei1999.html
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受賞風景
< http://homepage1.nifty.com/buff/2007zen.htm
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< http://buff.cocolog-nifty.com/buff/2007/04/post_3567.html
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- 映画がなければ生きていけない 1999‐2002
- 十河 進
- 水曜社 2006-12-23
- おすすめ平均
特に40歳以上の酸いも甘いも経験した映画ファンには是非!
ちびちび、の愉悦!
「ぼやき」という名の愛
第25回日本冒険小説協会 最優秀映画コラム賞
すばらしい本です。
by G-Tools , 2009/07/24