●日本の映画監督がOK牧場の決闘を映画化する話

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OKコラルが「牧場」ではなく、単なる馬つなぎ場(要するに、現代で言えば駐車場みたいなもの)だったことは、今ではかなり知られるようになった。確かに「墓石と決闘」でも、町はずれの囲いがある大して広くないところでの撃ち合いから映画は始まった。その後、ワイアット・アープとドク・ホリディらは、それが私闘かどうかを裁判で問われることになる。
逢坂さんの「墓石の伝説」は、伝説的な日本の映画監督がOK牧場の決闘を映画化しようとする話である。その小説の中で、逢坂さんは西部劇に関するマニアックな知識を全開にしていて、僕なんかが読むと「そう、そう」とうなずくことが多い。しかし、一般的にはどうだろう。新聞に連載された小説だが、マニアックすぎたのではないか。
面白いのは、西部劇ファンの映画監督が、もうひとりのディープな西部劇マニアと対談する場面である。ふたりとも自己の主張を譲らず、ケンカになる。単純な話で、「西部劇の監督ベスト3」とか「西部劇ベスト3」を選ぶ話などがきっかけになる。こうなると、マニアは困ったもので、絶対に譲らない。僕も似たところがあるので、読みながら深く反省した。
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そんな中で、逢坂さんがよく出してくるのがデルマー・デイビスという監督だった。デルマー・デイビスと言えば、僕には「避暑地の出来事」(1959年)「恋愛専科」(1962年)「スペンサーの山」(1963年)の監督という認識しかない。B級の恋愛映画を撮った人としか思っていなかった。いや、トロイ・ドナヒューの専属監督だと思っていた。ところが、逢坂さんは西部劇監督ベスト3に入れている。
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●「縛り首の木」は物騒なタイトルだが深い考察がある
もう初老と言ってもいい歳のゲイリー・クーパーが主人公の「縛り首の木」は不思議な作品である。デルマー・デイビスの最後の西部劇らしい。この後、デルマー・デイビスはトロイ・ドナヒュー主演映画を3本続けて撮り、その後はスザンヌ・プレシェットの映画を数本撮る。
「縛り首の木」は原題のままの物騒なタイトルだが、内容は深い考察に充ちた西部劇である。ある金鉱の町に流れてきた初老のガンマン風の男は実は医者で、その町になくてはならない存在になる。ヒロインはドイツ人のマリア・シェル(マクシミリアン・シェルの姉)である。ヨーロッパの女優が西部劇のヒロインをやった例は他に知らない。
ゲイリー・クーパーはある若者を助け、その若者は彼の医療助手として働くようになる。ある日、駅馬車が襲われ、たったひとり生き残った女性が救われるが、彼女は太陽に灼かれて全身にひどい火傷を負っていた。さらに、目も灼かれて失明寸前だった。その女性をクーパーと助手が看病するシーンが延々と続くのである。
「縛り首の木」は過去に傷を負った男が、新しい土地にきて住み着き、人生をやり直そうとする話だったのだと見終わってからわかる構造になっている。西部劇というよりは、初老の男と彼を再生させるきっかけになる若い女性の恋愛劇という印象だ。この作品の後、デルマー・デイビスが恋愛劇ばかり作ったのも納得できた。
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一方のヴァン・ヘフリンは地味な役者だし、主演級スターではなかった。しかし、「決断の3時10分」は間違いなく彼が主演である。ヴァン・ヘフリンは、「シェーン」の開拓農民の役で多くの人に顔を知られているが、この映画でも同じような役を演じて、「シェーン」の役に対して異議申し立てをしているかのようだ。それが監督のデルマー・デイビスの主張だったのかもしれない。
「シェーン」が公開されて大ヒットし、西部劇の代表作のように言われ、名作としての評価が定まった頃、「決断の3時10分」は作られた。「シェーン」の4年後の制作である。「シェーン」のヴァン・ヘフリンは開拓地に入植し地道に働き妻子を養っていたのに、妻子はある日フラッとやってきた流れ者のガンマンに心を寄せてしまう。妻はシェーンに露骨な視線を注ぐし、息子は「シェーン、カムバック」と、父親より銃のうまい流れ者を尊敬する。
もちろん、ヴァン・ヘフリンは狭量な男ではない。愛する貞淑な妻がシェーンに心を寄せていることに気付きながら、そのことを許容する。シェーンを友として遇する。父親より他人の方が息子の教育者として適していると受け入れ、息子がシェーンに憧れるままにさせておく。しかし、彼もいつかきっと自分の真価を、息子が認めてくれることを願っていたに違いない。
そんな、開拓農民であるヴァン・ヘフリンの想いを実現させる物語をデルマー・デイビスは制作した。「決断の3時10分」を見たとき、僕はずっと「シェーン」を思い出していた。ある意味では、「シェーン」のアンチテーゼとして「決断の3時10分」は存在する。
●夫への愛が伝わってくる感動的なラストシーン
「決断の3時10分」は、十数人の男たちが駅馬車を襲うところから始まる。強盗団のボス(グレン・フォード)は御者を射殺するが、それを牛追いの途中で見ていたのが小さな牧場をやっているヴァン・ヘフリンと二人の息子たちだ。「助けよう」という息子たちに、父親は「様子を見よう」と答える。
グレン・フォードは町の酒場に寄り、酒場の女とつかの間の情事を持つ。危険な香りを持つ男は、女にとって魅力的なのだ。だが、その間に保安官に知らせが届き、グレン・フォードは逮捕されてしまう。保安官は列車が停まる一番近い町までグレン・フォードを送り、そこからユマ行き列車に乗せようとするが、グレン・フォードの部下たちが奪還にくることを耳にする。
保安官は自分がおとりの護送隊になり、グレン・フォードは別の人間たちに護送させようと報奨金を出して人を募る。手を挙げたのがヴァン・ヘフリンと酔っ払いの男である。ヴァン・ヘフリンは水不足が続いて牛に水を飲ませることができず、現金を稼いで大きな牧場の川で水を飲ませる権利を獲得したかったのだ。
ヴァン・ヘフリンは酔っ払いの男とふたりでグレン・フォードを護送するが、まず自宅に連れ帰り食事をさせる。グレン・フォードは何人も殺した無法者だが、女にとっては魅力的な男だ。話もうまく、ハンサムである。ヴァン・ヘフリンの妻も好意を持った意味のことを夫に告げる。グレン・フォードも「いい奥さんだな。貧乏暮らしで可哀想だ」と口にする。
まるで「シェーン」みたいなシチュエーションである。違うのは、同じガンマンであってもシェーンは開拓農民のために立ち上がり、グレン・フォードは強盗犯として逮捕されていることである。ヴァン・ヘフリンの妻は「子どもたちが、あなたをヒーローを見る目で見ていたわ」と言うが、ヴァン・ヘフリンは子どもたちに自分の勇敢さを誇るために護送役を買って出たのかもしれない。
ヴァン・ヘフリンは慣れない銃を構えてグレン・フォードを護送し、駅がある町に着き列車の時刻までホテルの部屋に入る。グレン・フォードが「俺を逃がせば金をやる」と彼を誘惑する。また、隙を見て銃を奪おうとする。部下たちがボスを奪い返しにやってくる。相棒の酔っ払いの男は射殺され、ホテルの天井から吊される。「殺されるぞ。俺を逃がせ。美人の奥さんのところに帰れ」とグレン・フォードは囁く。ヴァン・ヘフリンは迷う。
二枚目ではない、どちらかと言えば悪役面のヴァン・ヘフリンの心の迷いが伝わってくる。もちろん命は惜しいし、妻子のことを考えれば死ぬわけにはいかない。だが、一度引き受けた使命を投げ出すわけにもいかない。自分は流れ者のアウトローのようなヒーロータイプではない。地味な存在だ。だが、妻の言葉への反発もある。臆病と思われる態度を子どもたちに見せてしまった後悔もある。だから、見返したい。
ずっと雨が降らず、そのことでヴァン・ヘフリンは追い込まれていたのだが、グレン・フォードの部下たちが集まった頃から雷鳴が轟き始める。ヴァン・ヘフリンの妻が夫を心配して、馬車でやってくる。彼女は自分が不用意にもらしたグレン・フォードへの好意的な言葉に、夫がこだわっていることを感じ取ったのだろう。その罪滅ぼしの気持ちもあったに違いない。やがて、ユマへ向かう列車が町に入ってきた。3時10分が近づいてくる...。
「決断の3時10分」で、デルマー・デイビスは「シェーン」的な西部劇に反論しているかのようだ。地味なヴァン・ヘフリンに花を持たせ、ラストシーンで愛し合う夫婦の明るい未来を感じさせる。妻は単調で刺激のない貧乏暮らしの日々に訪れた非日常的な状況(有名なアウトローと食事をし、その魅力的な話にひきこまれたこと)に、少し心が揺れただけ。夫を強く愛していたのだと伝わってくる感動的なラストシーンだった。
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「ペイルライダー」では、少女の母親は実直で地味だが自分たちを大事にしてくれる男ではなく、流れ者のガンマンに積極的に身を投げ出して誘う。やがて、ガンマンが去った後、地道な男の求婚を受け入れる。昔も今も、アウトローのように強くて危険な匂いのする男が魅力的に見えるのは、何も女性に限ったことではない。男だって、そんなヒーローに憧れている。地味で誠実な男より危険な男の方が魅力的なのは間違いない。
【そごう・すすむ】sogo@mbf.nifty.com

●305回までのコラムをまとめた二巻本「映画がなければ生きていけない1999-2002」「映画がなければ生きていけない2003-2006」が第25回日本冒険小説協会特別賞「最優秀映画コラム賞」を受賞しました。
< http://www.bookdom.net/suiyosha/1400yomim/1429ei1999.html
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受賞風景
< http://homepage1.nifty.com/buff/2007zen.htm
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< http://buff.cocolog-nifty.com/buff/2007/04/post_3567.html
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- 映画がなければ生きていけない 1999‐2002
- 水曜社 2006-12-23
- おすすめ平均

特に40歳以上の酸いも甘いも経験した映画ファンには是非!
ちびちび、の愉悦!
「ぼやき」という名の愛
第25回日本冒険小説協会 最優秀映画コラム賞
すばらしい本です。
by G-Tools , 2009/10/23
