機械式時計は小型化、高性能化が進み、時計業界は1960年代に全盛期を迎えました。この頃、数年後に機械式時計を駆逐する新しい仕組みの時計が登場することや、数十年後には腕時計を着ける文化がなくなることなど、誰も予想していなかったでしょう。機械式時計以降の腕時計の進化と、今後についてをまとめました。
●クオーツ時計
機械式時計がひととおり普及すると、今度はより精度の高い時計を求める気運が高まりました。天文台が主催するコンテストや、各メーカーの自発的な競争によって、腕時計の精度はみるみる向上していきます。
しかし、ベル研究所(アメリカ)で開発された「水晶時計」、またアメリカ国家企画局が開発した「アンモニア原子時計」が限界に近い精度をたたき出したことで、精度競争は終焉を迎えます。いずれも非常に大きな機械であったため、腕時計にはそれほど影響がなかったと思われます。
1969年にセイコーがクオーツ式腕時計を開発し、市販すると、クオーツショックの扉が開かれました。同時期に、音叉時計のように機械式時計とは異なる仕組みを用いた時計が登場しましたが、こちらは普及には至りませんでした。
●クオーツショック
クオーツ登場後、世界中の多くの時計工房、また時計メーカーがその歴史に幕を閉じることになりました。これを「クオーツショック」と呼びます。特にアメリカの時計産業は壊滅的な打撃を受け、当時の時計会社として現在残っているのはタイメックス社のみとなっています。
一方、スイスの時計業界も同時期に起こったオイルショック、国際為替の変動相場制導入により国際競争力を失い、多くの時計メーカーが消えてなくなりました。1990年代に機械式時計の再評価がなされるまで、機械式時計業界は低迷しました。
●腕時計の低価格化と多機能化
華々しく登場したクオーツ腕時計は、その普及に伴って低価格化もすすみました。液晶表示の時計が登場すると、低価格化はさらに促進されました。
また、液晶を使ったクオーツ時計では、機械式時計だと高額になりがちなクロノグラフやカレンダー機能でさえも比較的安価に実現出来たため、多機能化も一気に進みました。
●コレクタブルアイテムとしての腕時計
1983年にスイス時計業界が満を持して発売した「スウォッチ」は、シンプルな構造と安さ、豊富なデザインを武器にファッションアイテムとして認知され、高い人気を集めしました。
また同年、カシオ社から発売された「G-SHOCK」は、高い防水性能や頑丈さを前面に出したデザインなどで話題を呼び、ブームとなりました。いずれもコレクタブルアイテムとして、現在でも多くの蒐集家が存在します。
●機械式時計の再評価
クオーツ時計がひととおり行き渡ると、今度は機械式時計の再評価がなされました。ブランドを買い戻したり、グループを組むことで経営を安定化させ、機械式時計業界はようやく息を吹き返しました。
この結果、2006年にはスイスから日本への輸入額において、機械式時計が電池式時計を追い越すまでになりました。これは自然とそうなったわけではなく、機械式時計業界が自ら仕掛けて成功させたのです。
●腕時計を着けないという選択
時計の存在が当たり前となった現代、街には様々な時計があふれ、また携帯電話やスマートフォンの普及とともに、腕時計を身につけない人が増えていきました。
それでも、男性にとっては年齢を問わず身につけられる数少ないアクセサリーであり、また二極化する価格からステータス・シンボルとしての役割もさらに重みを増しています。
●先進の時計技術
太陽発電を利用した電池交換不要な時計、手の動きで発電する腕時計、また標準時刻の情報を電波でうけとる電波時計など、時計の進化は現在も継続中です。
一方で、スマホと連携するスマートウオッチやライフログツールなど、腕時計の「ポジション」を実質的に奪うガジェットも登場しています。
【吉田貴之】info@nowebnolife.com
イディア:情報デザインと情報アーキテクチャ
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兵庫県神戸市在住。Webサイトの企画や制作、運営を生業としながら、情報の整理や表現について研究しています。