再評価大百科[002]使い捨てカメラを再評価する
── 吉田貴之 ──

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「使い捨てカメラ」は、1980年代から90年代にかけて一世を風靡したインスタントカメラの俗称です。デジカメが普及し、さらにスマホが普及した今、使い捨てカメラが活躍するシーンは少なくなりました。





◇使い捨てカメラ登場の背景

カメラは腕時計や自動車と並び、高級な機械、憧れの機械の代名詞でした。それは現在もかわっておらず、少しこだわってカメラを買おうとすると、すぐに数十万円のお金が消えていってしまいます。

また、カメラは「お父さんの道具」の色が強く、機械に苦手な女性や子供からは敬遠されることもしばしばありました。コンパクトカメラなどの登場で低価格化や簡易化は進みましたが、それでも「高額な機械」と「難しい操作」のハードルは越えられるものではありませんでした。

◇「写ルンです」の大ヒット

1986年に富士フイルムが発売した「写ルンです」は、フィルムにレンズをつけただけの「レンズ付きフィルム」ですが、その低価格とシンプルな操作で大ヒットとなりました。カメラの操作で最難関ともいえる「フィルムの交換」が省かれていることがポイントで、利用者はカメラのメンテナンスや、落下の心配、盗難の心配をすることなく、気軽に撮影する方法を手に入れました。

◇写真を手軽に

写真を気軽に撮影したいという要求は、使い捨てカメラの登場以降も追求され、デジカメの普及や、携帯電話やスマホの普及に繋がりました。現在、誰もがスマホで撮影するように、使い捨てカメラを片手に出かける姿がたくさん見られたのです。そんな使い捨てカメラも、2000年代になるとデジカメの普及に押され、その市場を縮小していくことになります。

◇デジカメの進化

初期のデジカメの登場から20年以上が経過しました。その間、カメラの性能はどんどん進化しており、明るく鮮明な画像を何千枚も撮影できるようになりました。しかも、カメラ専用機ではなく、電話に付属したカメラでさえ、同様の進化を遂げています。

この状況を指して「『カメラ付き電話』というよりも『電話付きカメラ』なのでは」と評する人もいます。今では、カメラの性能がスマホの売上を左右するまでになりました。

◇味わいを楽しむ

そんな状況で、撮影枚数が少なく、画質もアナログ、すぐにシェアしたり加工したりできない「使い捨てカメラ」の登場するシーンがあるようには思えません。しかし、その「ちょっとした不便さ」を愛する人達もいるようです。

フィルム写真特有の、味わいのある画質が好き、という方がいます。また、撮影毎にフィルムを巻き上げる、ちょっとした「儀式」を楽しんでいる向きもあるようです。

また、最近のスマホで当たり前になっている「背景をぼかす」ことをあえて避け、全てにピントが合った状態の不思議な写真を面白いと感じる人もいます。また、撮影枚数の制限をポジティブに受け止め、一回の撮影に全力を向けるトレーニングツールとして使うことも可能です。

◇盗難に備える

修学旅行や遠足、林間/臨海学校など、子どもたちが集団で出かける際、高額なスマホやデジカメを持たせるのを避け、使い捨てカメラを推奨する学校もあるようです。たしかに、余計な心配をひとつ減らすことができるので、子どもに限らず、大人であっても海外旅行などでは利用しても良いかもしれません。もちろん、モノの価格以上に、撮影した思い出の方が価値があるはずなので、なくさないほうが良いのは当然です。

◇電気がいらないことを活かす

使い捨てカメラには、基本的に、電池やバッテリーが不要なのも長所の一つです。確実に撮影しなければいけない場面では、旧型の機械式カメラを持ち込むというカメラマンがたくさんいます。どんな場所でも撮影できる使い捨てカメラは、過酷な自然と相まみえる「エクストリーム」な状況で力を発揮するかもしれません。


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兵庫県神戸市在住。Webサイトの企画や制作、運営を生業としながら、情報の整理や表現について研究しています。