今では少し知名度が低くなってしまいましたが、昭和前半生まれの方には、高級時計や舶来時計の代名詞的存在であったのがロンジンです。
往年の名機は現代でも高く評価され、復刻モデルが販売されるなどコレクターの垂涎の的となっています。
●創業と社名
ロンジンは1832年、オーギュスト・アガシによって設立された、時計工房を前身とします。アガシの甥にあたるエルネスト・フランシロンがスイスに工場を設立し、本格的に時計製造をはじめました。
「ロンジン」の社名は、レ・ロンジン村に由来しますが、これは「小川沿いの草地」を表す方言を意味するそうです。
●成長期
1800年代後半から1900年代前半にかけては、万国博覧会や天文台の主催するコンテストに出品し、優秀な成績を収めます。
特にヌーシャテル天文台では、20年にわたり精度記録を維持するなど、安定感のある技術力を世界に知らしめました。あわせて、上品なデザインも人気を博した理由のようです。
●ロゴタイプ
ロンジンのロゴは、翼と砂時計を組み合わせたデザインです。これは「ウイングド・アワーグラス」と呼ばれ、1889年にスイスの特許局に登録しています。
ライト兄弟による初飛行が1903年であることや、ロンジン社のその後の動きを考えると、まるで未来を予言するかのような意匠であることがわかります。
●空とロンジン
1920年代になると、ロンジンと空との関係は急激に深くなっていきます。
1923年に、国際航空連盟やアメリカ航空協会のオフィシャルウォッチに認定されたのを皮切りに、1929年には飛行船での300時間にも及ぶ世界一周航行のナビゲーターに採用されます。
翌1930年には、リンドバーグの大西洋無着陸単独飛行のオフィシャルタイマーに選ばれました。アメリア・イアハートが、大西洋単独飛行の際に使用したのもロンジンの時計です。
●アワーアングルウォッチ
航空時計としての実績を積み重ねたロンジンは、リンドバーグと協力して「アワーアングルウォッチ」を開発します。
アワーアングルウォッチは人気を集め、ロンジンを代表するモデルとなりました。1987年には復刻販売され、再注目されました。
●オフィシャルタイマーとしての存在感
空を支配したロンジンですが、1930年代以降は地上での活躍が目立ちます。F1の前進となるブラジルグランプリや、1972年に行われたミュンヘンオリンピックでは、公式計時を担当しました。
現在も日本中央競馬会とパートナーシップを結ぶなど、スポーツを通じて積極的な広報活動を続けています。
●クォーツショック以降
例に漏れず、クォーツが普及し始めた1970年代以降は、経営状態が悪化します。その直前、1967年には高精度自動巻腕時計「ウルトラクロン」を発売するなど、技術力のある古豪ブランドとして最後の輝きを放ちました。
1990年代になると、往年の名機を再現したコレクションを数多く発表し、レトロながらもエレガントな時計が市場から高く評価されました。現在は、スウォッチグループに属しています。
【吉田貴之】info@nowebnolife.com
イディア:情報デザインと情報アーキテクチャ
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兵庫県神戸市在住。Webサイトの企画や制作、運営を生業としながら、情報の整理や表現について研究しています。