まにまにころころ[132]ふんわり中国の古典(孫子・その12)六つの地形に応じた戦い方と六つの負けパターン
── 川合和史@コロ。 Kawai Kazuhito ──

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コロこと川合です。大河ドラマ『西郷どん』、なんていうか今回の大河もまた、朝ドラか昼ドラかって感じのスイーツ風味ですが、面白いことは面白いです。鈴木亮平と瑛太が、いい味出してます。

純朴な鈴木亮平が『俺物語!!』の猛男に見えて仕方ないですが……。

斉興と斉彬が不仲である一因として、斉彬が江戸生まれだという点を挙げてたのは、ああなるほどなー、そうかもなーと思えて良かったです。

その斉彬が、薩摩生まれの久光が頼りだと言ってたのも良かった。前週では久光がなんか、単なるマザコンみたいに描かれていて不満だったので。

ただまあ前回、調所広郷のことを書きましたけど、斉彬と西郷さんに敵対する位置づけの人が、何かと貶められて描かれてる感があるのは残念です。お由羅はまあ、ひどくてもいいですけど。(笑)

あと、仕方ないんですが、西郷さん周辺、登場人物が多すぎて覚えられないのが辛いです。家の中だけでも何人いてるねん、ってくらい。(笑)

西郷さんの話はさておいて、今回も孫子の続きです。江戸城無血開城なんかは、孫子っぽいですけどね。今回は「地形篇」から。孫子の時代の地形について話されても、って思うかもしれませんが、結構ここは面白いですよ。




◎──『孫子』地形篇(一〜三)

地形には、
・通:通じるもの
・挂:さまたげるもの
・支:わかれるもの
・隘:せまいもの
・険:けわしいもの
・遠:遠いもの
がある。

行き来しやすい「通」では、敵より先に日当たりの良い高所を押さえて、糧道を確保して戦えば有利になる。

障害物があり進行はしやすいが引き返し難い「挂」では、敵に備えがなければ進軍して勝てるが、もし備えられていれば、勝てず、しかも撤退が難しく不利である。

枝道に分かれた「支」は、味方も出ては不利、敵も出ては不利な地形だ。だから敵が利で誘ってきても、出ていってはいけない。いったん引いて、敵を半ばまでおびき出すことができれば、討ちやすくなる。

せまい地形の「隘」では、こちらが先にそこを押さえることができるならば、兵を集めて迎え撃つ態勢を取るのがいい。もし逆の場合は、攻めてはいけない。敵が集まっていなければ、攻めるといい。

「険」では、これもまず敵より先に日当たりの良い高所を押さえて、敵を待ち受けるのがいい。逆に、敵がそこを先に押さえている場合は撤退し、戦ってはいけない。

敵味方が遠く離れている「遠」では、両軍の気勢が均衡している場合は、戦いを仕掛けるのが難しく、戦えば不利になる。

この六つが地形についての道である。これらのことを熟考するのは、軍を率いる将の最も重大な任務である。

軍には(良くない状況として)、
・走:敵前逃亡
・弛:指導力のゆるみ
・陥:士気のおちこみ
・崩:指揮系統の崩れ
・亂:統制の乱れ
・北:敗走
がある。

この六つは天の災いではなく、将の過失である。両軍の気勢が均衡している時、相手の数が十倍いるのに向かって行けと言われれば逃亡する。兵の力が強くて、取り締まる立場の者が弱い場合、軍はゆるんでしまう。

逆に取り締まる立場の者ばかり強くて、兵が弱い場合、軍の士気は落ち込む。取り締まる立場の者が怒りから将の命令に服従せず、敵に会えば勝手に戦い、将軍もその者の能力を認めていないような場合は、軍は崩れる。

将が惰弱で厳しさを持たず、軍令も明らかでなく、部隊の動きが定まらず、陣形もままならない状態が亂である。

将が敵を見極められず、小さな軍で大軍に遭遇したり、弱いのに強い敵を攻撃したり、自軍に精鋭部隊も作れていなかったりすれば、敗走することになる。

これら六つすべて敗北の道である。これらのことを熟考するのも、軍を率いる将の最も重大な任務である。

地形というものはそもそも、軍の戦いを助けるものである。敵の情勢を計って勝算を立て、地形を検討して作戦を立てるのが将の役割だ。

これを知り戦えば必ず勝ち、知らなければ必ず負ける。必勝が読める場合は、君主が戦うことを止めようと言っても戦うのがいいし、逆に勝ちが見えなければ、君主が戦えと言っても戦わないのが正解だ。

功名のために進んだりすることなく、退くべき時には罰を覚悟で退き、ただ人民の安全を考えて、君主の利となる将は国の宝である。


◎──『孫子』地形篇(一〜三)について

ちょっとずらずらと長くなってしまいましたが、六つの地形に応じた戦い方と、なぜかここで、六つの負けパターンについての話。

なぜか、というか、地形を押さえるだけじゃなくて、「こんな状態になっちゃだめ」というのを合わせて知っておくことで、勝利を計算するのが将の仕事だよと。

「こうだったらいい」ではなく「こうなっちゃだめ」というのを挙げるのが、なんていうか、現実的でいいなあって思いました。

理想を挙げればキリが無く、なかなかそんな条件は揃わないってのが正直なところだと思うんですが、でも、最低限のルールとして「これだけはだめ」ってのを押さえておくことって普段、現代の仕事でも役立つんじゃないですかね。

例えば、上手なコミュニケーション術、みたいなのを身につけるのは大変でも、政治と宗教の話は避ける、他人の悪口は言わない、って感じで「NG集」を作り、それを守ることは比較的取り組みやすいように思います。

私の仕事だと、お客さんがSNSの公式アカウントを作る時などに、運用ポリシーをまとめるのが大変ならせめて、「やっちゃいけないこと」のリストだけでも作って担当者に渡してねって話をしたりします。


◎──『孫子』地形篇(四〜五)

将は配下の兵士を、生まれたての赤ちゃんであるかのように見れば、いたわりの気持ちで深い谷底へも共に進んでいける。また兵士を愛する我が子のように見れば、生死を共にしようと思えるようになる。

だが、手厚くいたわりすぎて使うことができなかったり、愛しすぎて命令できなかったり、乱れているのに統制をとることができなかったりすれば、それは驕り高ぶったワガママな子を持ってしまうようなもので、兵士を使うことができなくなる。

味方の兵士に敵に打ち勝つ力があると分かっていても、敵を攻めてはいけないような場合もあると分かっていないようでは、勝ち負けは半々である。

攻め時を分かっていても、味方の兵士にその力が足りないと分かっていないようでは、これも勝ち負けは半々である。

攻め時を知り、兵士にその力があると知っても、その地形が戦いにそぐわないことを知らないような場合も、勝ち負けは半々。

戦に通じた将というものは、敵を知って、味方を知って、地形のことも知って、行軍に迷いがなく、戦端が開かれた後も苦境に陥らない。彼を知り己を知れば、勝利、危うからず。天を知り地を知れば、勝利、行き詰まらず。


◎──『孫子』地形篇(四〜五)について

「知ってる! 彼を知り己を知らば百戦危うからず、ってやつだ!」と思われた方は、途中からこの連載を読み始めたか、以前のことをすっかり忘れたかです。それは、連載の四回目、謀攻篇で既に出てきました。

私もすっかり忘れてました。(笑)

謀攻篇では、勝利の五つのポイントを挙げて、

・戦うべきか否かを知る
・兵力に応じた戦い方を知る
・トップから末端まで一丸となる
・十分に備え、相手の隙を待つ
・将が有能で、君主がむやみに干渉しない

それらを踏まえて、相手を知り、己を知れば、百戦しても負けない、と。

地形篇では、勝利の条件で地形も重要なファクターだよと言ってるんですね。地形についても押さえておくことが、「将が有能」に含まれるのかなと。

なお「天」「地」は、戦をする上で押さえておくべき五つの基本事項として、連載の初回「計篇」で、出てきました。

・道:大義名分の元に団結できているか
・天:タイミング。期を得ているか。
・地:地形の優劣を把握できているか
・将:智、信、仁、勇、厳に優れた将を有しているか
・法:規律を元に統制が取れているか

という形で。

敵のこと、自軍のこと、天の時、地の利、これらを知っておくことが、勝利のポイントだと地形篇で改めて書かれているわけですが、計篇などで挙げていた「地」について詳しく解説したのがこの地形篇です。

計篇で挙げられた五つのうち、単独で一篇を割いているのは「地」だけなので、それだけ重要視されたということかなと思います。他の項目もまあ全編通じて繰り返し語られているんですけどね。

何度となく紹介していますが、この連載でベースにしているのは、『[新装版]全訳「武教七書」1 孫子 呉子』(ダイヤモンド社)という本で、その中で『「地の利」とは企業経営で言えば立地条件』と書かれているんですが、それは違うだろうと思います。

戦争での地形を現代の経営で喩えるなら、業界とか商材でしょうか。どの戦場で戦うか、戦場をどこに置くかと。コモディティ化される商品を扱うならライバルに先駆けて市場を押さえ、円滑な流通を確保できれば有利だ、とか。

戦場の特性について書かれたのが、地形篇ですので。立地条件、としてしまうと、ちょっと意味合いが狭くなる。個別の事情にもよりますが、立地は、どちらかといえば作戦行動としての戦術のひとつかと。

この本、ちょいちょい無理やり現代に置き換えた、薄っぺらい解説が混ざってるので注意です。(笑)

著者のひとりである守屋淳さんは、『最高の戦略教科書 孫子』(日本経済新聞出版社)という本も書かれているので、直接的に経営について書かれた孫子としては、そっちのほうがオススメです。


◎──今回はここまで。

地形篇はここまで。残すは、九地編、火攻篇、用間篇です。九地編、また「地」かと思われるところですが、こちらはもう少し広域で「地域」といった感じや、状況も踏まえた、概念的な「地」です。地形篇は文字通り「地形」の話でした。ちょっと長めなので、一回で終わらないかも……。

ちなみにこの1月から2月頭にかけて、仕事がパツパツで大変でした。『孫子』では次回の九地篇で、そんな状況の時にどうすればいいのかが書かれています。「頑張って戦うしかない」って。(爆)


【川合和史@コロ。】koro@cap-ut.co.jp
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大変でした、っていうか、今なお「2月頭」なわけで、引き続き大変です……。