まにまにころころ[133]ふんわり中国の古典(孫子・その13)経営者や部下を持つ役職者は読むといいかも
── 川合和史@コロ。 Kawai Kazuhito ──

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コロこと川合です。西郷どん、いよいよ江戸へ出立! ここからしばらくの間が、たぶん一番楽しんで見られる部分じゃないかなと思います。斉彬との蜜月時代というか、斉彬が存命なうちの話が。斉彬がいなくなると大変なので……。

昨日の放送では、大久保との友情が良かったですね。グッとくる。西郷さんが大久保に言った「殴り合いは二度とごめんじゃ」って言葉が、西南戦争のことを知ってるだけに、なんかちょっと重かったです。

もうひとつ、最初の奥さんである須賀との別れが良かったです。たぶん実際は、普通に愛想を尽かされたか、見るに見かねた実家に連れ戻されたかってところじゃないかと思うんですが、ドラマでは口べたな須賀が、西郷さんと西郷家にしてあげられる究極の一手として、離縁というカードを切った形に。

西郷さんもちゃんとそれを理解して。筋立ても良かったし、演技も良かった。あまりにも不器用な、でも強い愛を、感じました。

さて、大河話はこの辺にして、孫子に移りましょうか。今回は九地篇から。






◎──『孫子』九地篇(一〜二)

戦場には、
・散地:兵が散ってしまう土地
・軽地:兵が浮き足立つ土地
・争地:奪い合いになる土地
・交地:交通の便が良い土地
・衢地(くち):諸国に通じるハブとなる土地
・重地:重要な土地
・ヒ地(「ヒ」は、土偏に己):地形的に行軍が困難な土地
・囲地:囲まれた土地
・死地:死を決するべき土地
がある。

それぞれ、
・散地:自国領内
・軽地:他国だがまだ深く進んでいない土地
・争地:味方にとっても敵にとっても、先に取れれば有利になる土地
・交地:こちらから進軍もできるし、敵側からも進軍できる土地
・衢地:諸国に通じ、先に押さえられれば諸国と連携できる土地
・重地:敵国深く、敵の城や村に囲まれた土地
・ヒ地:山林、険阻、沼沢地など進軍困難な土地
・囲地:入り口が狭く撤退には迂回が必要で、また相手は小勢でこちらの大軍を撃つことができる土地
・死地:疾戦、つまり速やかに奮戦しなければ、滅びを免れない土地
である。

それらでは、
・散地:戦わない
・軽地:留まらない
・争地:先に取られたなら攻めない
・交地:密に連携し分断されないようにする
・衢地:外交を図る
・重地:現地の食料を奪う
・ヒ地:なるはやで通り過ぎる
・囲地:策を用いる
・死地:奮戦する
以上である。

古代の良将は、敵の前軍と後軍を分断し、大隊と小隊の連携を絶ち、高い身分の者と低い身分の者、上の位の者と下の者とを助け合わさず、兵を離散させ、集合しても隊列を整えさせないようにした。

そして自軍が有利になれば動き、そうでなければ動かなかった。

ここで質問しよう、敵の大軍が整然とこちらへ進軍してくるならば、どう迎え撃てばいいか。答えは、真っ先に敵が重視する地を奪うことだ。そうすれば敵を思い通りに動かせる。

実際の戦争はスピードが第一。敵の準備が整わない隙に、思わぬ手を使って、敵が警戒していない地を攻めることだ。


◎──『孫子』九地篇(一〜二)について

九地篇という名の通り、戦場を九つに分類して、それぞれでの戦い方を説いています。地形篇に続いて「地」の話ですが、こちらは、その土地が軍にとってどういった場所なのかという話です。


◎──『孫子』九地篇(三)

敵国に進軍した場合、敵国深く(重地)攻め入れば味方は結束し、(相手には散地であって)敵は抵抗が難しくなる。そこで物資を徴発すれば、自軍の食料は十分に潤う。それで兵を十分に休めておいて、士気高く力を蓄える。

その上で軍を動かし、敵に知られないように計略をめぐらす。こうしておいて自軍の兵士を、あとはもう戦うしかない状況の戦場(死地)へと投入すれば、兵は、たとえ死んだとしても逃げないような戦いをする。決死の覚悟で士卒とも力を尽くすのだ。

兵士は窮地に追い込まれれば逆に恐怖を忘れ、戦うほかに行く場がなければ腹も固まり、深く攻め入れば結束し、戦わざるを得なければ、戦うものだ。

だから、そういった状況に追い込まれた兵士は、指示がなくても互いに戒めあい、将が求めるまでもなく善戦し、約束させずとも助け合い、命令をせずとも信頼できる部隊になる。

あとは迷信のたぐいを禁じて、迷いを晴らしてやれば、命をかけて、死ぬまで戦うだろう。

私の兵が余計な物資を持たないのは、物資がいらないからではない。命がけで戦うのは、命がいらないからではない。覚悟の問題なのだ。

決戦の命令が下った時は、座っている者は涙で襟を濡らし、横たわっている者は涙が伝って顔を濡らす。この者たちを戦うしかない状況に追い込めば皆、勇士と名高い専諸や曹沫のように勇戦するのだ。


◎──『孫子』九地篇(三)について

話の途中から、すごくブラック企業のようになっていきます。(笑)

ちょっと長々と語っていますが、要するに、敵国を攻める場合は一気に奥まで進行して豊かな土地を押さえ、物資はそこで調達して、兵士を十分に休ませ、気力体力共に充実したところで、死ぬ気で戦わざるを得ない窮地に追い込む、と。そうすれば奮戦するしかないから強い、と。勝てるぞ、と。

ブラック企業と違うところは、死ぬ気で戦わないと本当に死んでしまうところ。辞めるとか行かないって選択肢がない。戦争って、そういうことなんですね。

同じ理屈は踏襲しつつ、せめて少しでもブラックでないように務めるとすれば、事前に行動の意図を周知することでしょうか。

一番最初の時点で、説明した上で、決死隊を募る。上手くいけば、めちゃめちゃ強い部隊になる。失敗すれば、みんな逃げちゃうけど。周知されたところで、ブラックはブラックですけどね。


◎──今回はここまで

九地篇、まだ長いので今回はここまで。次回に続きます。今回の部分だけでも、色々と考えさせられる章じゃないでしょうか。経営者や部下を持つ役職者には特に。

いかに部下の力を100%以上に引き出すか。いかに死地に追い込むか。……その発想は既にブラックです。(笑)

この部分だけ読むと、孫子は超ブラックに見えますが、最初の方を思い出してください。孫子は、戦わないで勝つことを最上としています。それを前提とし、戦うことになった場合はこうすればいい、という話をしています。

戦争になる時点でもう、ブラックなんです。で、そうなってしまった場合に、どうすれば自軍の被害を最小に押さえて、少しでも早くその状況を終わらせられるかと、そのための方法を説いているんです。負ければ死ぬんです。早いこと勝って、戦争を終わらせないといけないんです。

そう思えば、企業がブラックな状況を脱するには、どうすれば戦場じゃない所で企業活動をやっていけるのかを、考えるしかないのかもしれません。戦わない、競争しない、そんなビジネスが最強なんでしょう。

もっとも、そんなビジネスはごくわずかで、その座をめぐる競争がありそうな気もしますけどね……(笑)


【川合和史@コロ。】koro@cap-ut.co.jp
合同会社かぷっと代表

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