腕時計の魅力は、ブランドや歴史、デザインなどいろいろな要素が組み合わさって構成されていますが、価格や時代を超えて共通している要素のひとつが、「腕につけたときの心地の良い重さ」ではないでしょうか。
腕時計は金属の塊であるといっても過言ではないほど、たくさんの金属が使用されています。それ故に、前述のずしりとした重さが生まれるわけですが、これは他のブランド品と比べても高額になることが多い腕時計が、その価格で取引される妥当性をイメージの面で支えているといわれています。
金属は他の素材と比較して固くて丈夫である一方で、「錆」の問題を抱えています。腕時計に生じる錆について考察してみました。
◎錆? 汚れ? キズ? 経年変化?
自分の腕時計に錆のようなモノをみつけると、少なからずショックを受けてしまいます。しかし、それが本当に錆なのかどうかを、まずは判断しましょう。
おそらく、大抵の場合は「汚れ」であることが多いはずです。腕時計の素材として主に使われているステンレスは、「stainless(錆ない)」の名の通り、めったに錆びることがありません。
錆ではないとすれば、汗や皮脂などが原因の汚れである可能性が高いでしょう。これらの汚れは水で洗ったり、布でこすったりすることで落とすことができるので、クリーニングしながら錆ではないことを確認しましょう。
一方で、錆ではないものの、クリーニングで落ちない汚れがあります。これは使用による瑕疵だと判断して良いでしょう。コーティングの剥離、ゆがみやスリキズなどがそれに該当します。
いずれも適切な対処方法がありますが、完璧な修復が難しい場合も多く、経年変化はいわゆる「味」として、そのままにしておく方も多いようです。日焼けのような経年変化は、ここでは考えなくても良さそうです。
◎文字盤や針の錆
汚れでもキズでもないのであれば、錆であると判断して対応を進めましょう。腕時計の顔ともいえる文字盤や針は、錆が目立つ場所でもあります。古い時計では、不運にも水が入ってしまったことのある個体に、文字盤や針の錆が生じていることがあります。
「錆」と聞いて想像するような、青錆や黒錆であることは少なく、めっきやコーティング、塗装の下地の素材から発生しているものが多いため、くすみや粉吹きといった症状で現れてきます。
◎ムーブメントの錆
文字盤や針同様、ムーブメントの錆も水の混入によって起こるものです。極小の歯車を精密に組み合わせてできている機械式時計では、錆は致命的なトラブルといえるでしょう。
とはいえ、錆は部品の交換や適切な研磨で対応できることが多く、あきらめる必要はありません。クォーツ時計では、電池の腐食が原因の錆をよく見ます。厳密には錆とは異なるものですが、金属が腐食されている状態であることには変わりないので、錆びた場合と同様の対応を適用することができます。
◎ケースの錆
腕時計でもっとも錆びやすいのがケースです。特に、密閉度の高いケースが開発されて以降は、一度入った水が逃げにくく、ケースの隙間やムーブメントとの接点などに錆が生じることが多いようです。
大抵は、密閉度を上げるために使われているシリコンやラバーの、パッキンの劣化が原因です。アンティークやヴィンテージの時計を扱う際には、ケースの表面上の状態だけでなく、継ぎ目や中の状態にも注目すべきでしょう。
◎ブレスレットの錆
一番水に触れる可能性があるブレスレットは、ケースよりも錆が生じやすいように思いますが、水がついても乾燥しやすいからか、錆が生じているものはそれほど多くはないように思います。
ただし、時計本体とつなぐバネ棒は錆が発生しやすい条件が整っており、可能であれば頻度高く交換することをおすすめします。
◎錆をコントロールする
前述したように、錆は研磨することや、市販の錆除去剤で落とすことができます。一度錆が生じた個所は、以降も錆が出やすくなっていますので、利用方法やメンテナンスの際に気をつけたほうが良いです。
「水につけないこと」「湿度の低い場所で保管すること」「パッキンやバネ棒を定期的に交換すること」が、錆をコントロールする基本です。
錆がどうしても我慢できない、という場合は、錆びない素材を使った時計、たとえば金やプラチナのような宝飾時計か、プラスチックやセラミックなど新素材を使ったアウトドア系の腕時計を選ぶ、というのも悪くない選択です。
【吉田貴之】info@nowebnolife.com
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兵庫県神戸市在住。Webサイトの企画や制作、運営を生業としながら、情報の整理や表現について研究しています。