おおざっぱにいうと、2000年頃を境に、腕時計は誰もが持っている道具ではなくなりました。それから20年が経過し、今ではほとんどの人が腕時計を身につけることをあきらめてしまったように思われます。こんな時代に、腕時計で商売を続けていく方法を考察しました。
◎腕時計がどれくらい売れているのか
腕時計市場が下火になったとはいえ、それでも国内では年間6千万個以上の腕時計が売れており、その販売総額は約3千億円に及びます。前年比では個数で4%、金額では10%も伸びているそうです。
◎どんな腕時計が売れているのか
個数よりも金額のほうがより伸びていることからも、商品単価が高くなっていることが推測できます。単価の低いクォーツよりも機械式が、ノーブランドのものよりもブランドの腕時計が、売れる傾向にあるのではないでしょうか。
◎アップルウォッチの躍進
一方で、2019年にはスマートウォッチの代表格である「アップルウォッチ」の出荷数が、スイス製の腕時計の出荷数を抜いたことが話題になりました。アップルウォッチは機能の面でどんな腕時計よりも優れており、さらに価格でも一般的なブランド腕時計の3分の1や4分の1で購入できるため、アップルウォッチが人気を集めるのは当然、というところでしょう。
◎投資対象としての腕時計
このように、腕時計がマニア向けの特殊な商品になってしまったので、これ以上大きく売上が上昇する見込みはなさそうです。そこで、腕時計をデザインや機能などを評価して取り扱うのではなく、投資の対象として取り扱う個人やお店が増えてきました。確かに、一部の人気モデルは発売時点から価格が上昇することが確定しているものもあり、手に入れることさえできれば利益が約束されているという、魅力的な投資対象ではあります。
◎投資対象としての限界
しかし、投資対象としての腕時計になりえるのは現行品に近い、ほんの一握りの腕時計だけです。腕時計の市場が縮小していきつつあった2000年以降、それらの商品にだけ注目していた質屋さんや販売店が、2010年頃にはすでにその利益の少なさと仕入れ値の高さのため、大いに苦しんでいたことを忘れているようです。
◎腕時計が持っている魅力
腕時計を取り扱うに当たり、投機的な価値を説明するのが間違っているわけではありません。迷っている人の背中を押すには良い方法とも思います。ただ、腕時計、特にヴィンテージやアンティークの腕時計には、それぞれがもつ歴史やストーリー、希少性がすでに備わっているはずです。
これらを無視して、現在の人気と価格だけに注目していると、腕時計の本質的な価値を見誤り、結果として貴重な腕時計を海外に流出させたり、国内の市場を壊したりしてしまうという、腕時計好きにとっては厳しい未来が待っているのは明白です。
◎腕時計で商売を続けたいなら
今後も腕時計で商売を続けたいのであれば、腕時計本来の魅力をまっすぐに伝え、多様な商品を取り扱い、適正な価格で売買するほうべきです。こうすることにより、腕時計の商材としての価値を維持できるのではないでしょうか。
【吉田貴之】info@nowebnolife.com
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兵庫県神戸市在住。Webサイトの企画や制作、運営を生業としながら、情報の整理や表現について研究しています。