グラフィック薄氷大魔王[673]本格VRゴーグル、期待と挫折 その4 「あれ? 違う」
── 吉井 宏 ──

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●期待と違った!

結論を先に書くと、まったくダメだった。VR空間の中での3D制作のための3つのアプリ。

期待したのは「平面のパソコンディスプレイでチマチマやるんではなく、3D空間で全身を使って次々にキャラクター制作できたら楽しそう!」。仮想のFRP大型立体作品を「実物大」で次々に作りまくり、心地よい疲労に満たされる……的なw

グラフィック薄氷大魔王[672]本格VRゴーグル、期待と挫折 その3 「やってみたかったこと」
https://bn.dgcr.com/archives/20200930110200.html


VRゴーグルを装着して仮想空間でモデリングを始めた瞬間、僕的にディスプレイやペンタブレットで描くのが過去になる! と期待してたのだが、おかしいなw




アプリやVRゴーグルに不満があるわけじゃない。出始めで未発達かもしれないけど、VR世界で何かを作るにはどういうユーザーインターフェイスが適してるかなど、よく考えられて作られてるに決まってるし。実際、大勢の人がVR世界で3D制作やペイント作品を作って発表してるわけで。

●何がダメだったか?

・「指先」と「全身」

ディスプレイとペンタブ(や、マウス)で、指先を数cm動かして一瞬で操作できることが、VR空間では全身を動かさなきゃいけない。指先操作に慣れきってるため、「視点を変える=頭を動かして姿勢を変える」すら超絶めんどくさいのだ。

空間にラインを描いたり、両手で面を貼る操作など、完全にフィジカルの世界。体をどれだけコントロールできてるかモロに出る。スポーツに近いかも。

・形状を把握しづらい

3D制作は「真上・真横・正面など、どんどん視点を切り替え、どれだけ動かせばどれだけ変化するか、客観的に冷静に観察」しながらやるわけだが、VRではそれがやりづらい。

2mの巨大フィギュアを「実物大」で作る場合、5m後ろに下がらないと全体を把握できないかもしれない。もちろん、縮小表示したり、立つ位置を変えたりできるけど、「平面のディスプレイより便利」ではぜんぜんない。

僕は普段3Dモデリングする場合、形状が歪んで見えるパースはオフにしてるのだが、VRでは思いっきりパースがかかるので、作業中は形状がぜんぜんわからない。

そのへん、3D制作は初めての人は馴染めるのかもしれない。

・Gravity Sketchのポリゴンモード

最も期待したアプリの、ポリゴンモデリング機能。慣れれば「エッジやポイントやポリゴンを手でつかんで動かしたり、くっつけたり」ができそうに思えるのだが、一度モードから離れるとポリゴンに戻れないらしい。せめてローポリモデルを終始チャッチャと作れるようになれば、僕的に使い道はあるのだが。

・触感がない

粘土や発泡スチロールなど、リアルで立体制作する場合、両手で触って立体感を確認する。VR空間での3Dモデリングは、目の前にオブジェクトがあるのに、触れない! 手が突き抜ける!

・3D酔い

これは予想してた。Oculus Rift Sは内蔵カメラで周囲をトラッキング、VR内の映像と体感のズレは最小限。とはいえ、しばらくやってると酔う。助けてくれ〜! くらい酔うし頭が痛くなる。度が合わないメガネをつけてる感じ。

・VRゴーグルをつけていること自体が不快!

体を動かさなくちゃならない制作作業では、ゴーグルの重みが非常に気になる。ユッサユサ来る。中でメガネもかけてるので不快。付け外しで髪の毛をはさんで「イテッ」は毎回のこと。はっきり言って、一分一秒でも早く、外したい!w

「朝起きてVRゴーグルをつけ、ゴージャスな仮想スタジオで一日中制作」とか考えてたけど、とても無理。そのへん、近い将来、メガネ並みに軽いゴーグルが出てくるんだろうけど。

・「無限の空間」と「狭い仕事部屋」

躊躇なく体を大きく動かして制作するには広い部屋が必要! Oculusの設定で「この範囲は安全」という柵が生成され、その範囲から出そうになると警告される。

しかし、机や椅子や本棚などを除いた安全圏は2〜3畳な仕事部屋。ゴーグルの外が見えない目隠し状態では、「何かにぶつけてしまうんじゃないか?」って手を動かすにも怖々やってる。ぜんぜん楽しくない!

Oculus Rift Sに付属のPC接続ケーブルって5mもあるんだけどねw 半径5mって直径10mだよ! 思いっきり走り回って使ってみたいなあw

●今のところ有用なこと

直接制作に活かせなくても、Sketchfabなどで「3Dオブジェクトを見る」は平面のディスプレイでは得られない体験。オブジェクトの内部に入り込んだり、もう一つの現実として見ることもできる。

従来の3DソフトにVRインターフェイスが搭載されてるものがある。ModoにもVRビューがあり、ある程度の編集作業も可能。制作中のキャラクターやオブジェクトをVRゴーグルで見ると、OpenGLでリアルに表示される。触れそうなキャラがそこに原寸大で居る!って感動する。

●いや、やめるとは言ってないw

夢に見たVR制作環境は「本当にただの夢だった」だけで、ここから現実が始まるのだ。Oculus Quest2も手に入れたいと思ってるし、Sketchfab関連では個人的に盛り上がってることもあったりする。そのうちまた書きます。


【吉井 宏/イラストレーター】
HP http://www.yoshii.com

Blog http://yoshii-blog.blogspot.com/


かすかにキンモクセイが香り始め、「ようやく秋本番だな〜」とか思ったら、数日でゲホゲホとむせかえる強烈さに。部屋のすぐ外にキンモクセイの大木があるのだ。

以前似たようなこと書いたなと検索したら、2008年10月15日の第154回の後記に「キンモクセイの香りにむせる、と昔EPOが歌ってましたが」とか書いてた。「アメリカ発の2回目の大恐慌来ました〜」とも。これはリーマンショック。今は僕的に12年前より圧倒的にひどいコロナ不況。恩恵ぜんぜん受けなかったバブル弾けて以来、ろくな時代じゃないなw

グラフィック薄氷大魔王[154]マジックベルト、締めて立つ
https://bn.dgcr.com/archives/20081015140100.html


○吉井宏デザインのスワロフスキー

・三猿 Three Wise Monkeys
https://bit.ly/2LYOX8X


・幸運の象 LUCKY ELEPHANTS
https://bit.ly/30RQrqV