万年思春期[002]2話目「色の匂い」
── 木村きこり ──

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さて、前回に引き続き色について書いていこうと思うのだが、まず皆さんは美術館やギャラリーに行き、絵画を観るのはお好きだろうか? 

私は大好きだ。現物の絵画を観ると、画集ではつぶれて見えなくなってしまった、画家の生々しい筆づかいを感じることができるし、色の発色も全然違うことなどがあり、新しい発見がある。そして最近では、その絵特有の「匂い」を感じることもあるからだ。

昔、美術予備校の先生が、某巨匠の絵画についてこう語っていたことがある。「あの人が描いた絵は最初は良いと思うのだが、見続けているうちに無理やりケーキを食べさせられているような感覚になる。色合いが甘ったるくて仕方がない」





私は最初その意味がわからなかった。きょとんとしていると、その後、先生はこう続けた。

「こういう、ある刺激に対して異なる知覚現象も感じるのを共感覚と言うらしいが、感覚を鍛え続けると持つことが出来たりするんだよね」と。

先生曰く、一般的に「共感覚」は生まれつきのものと言われているが、鍛えるとそれに近い感覚を持てるらしい。

その時は「そんなことがあるもんか!」と思っていたのだが、私はある画家の絵をみたことを境に、「匂い」を感じることが出来るようになった。

それは昭和の日本を代表する画家「東山魁夷」の絵を観た時だ。

「匂い」を感じられたその日、私は持病が悪化して非常に体調が悪かった。しかし、親と約束していたこともあり、しぶしぶ美術館に足を運んだ。それがいけなかったようで、私は絵画鑑賞をしている際に、体力の限界が来て倒れてしまった。

すぐに学芸員が来て事務室に寝かせられたが、あまりにも申しわけないため、10分ぐらい休ませてもらい、家に帰ろうと思い事務室を出た。

しかし、親は一人で帰らせるのが心配なのか、治ったと思ったのか「常設展も見る」と言ってきかない。しかたなしに、ヘロヘロになりながら常設展の会場に入った。そこにあったのだ。東山魁夷の風景画が。

観た瞬間、私は「匂い」を感じた。けっして美術館の匂いではなく、高校生の頃、友達と寒いねと言いながら電車を待っていた、澄んだ冬の朝の匂いだった。あぁ、あの友達ともう長らく会っていないが元気にしているだろうか、と懐かしい気持ちにもなり自然と涙ぐんでしまった。

それまで正直、東山魁夷の絵はあまり好きではなかったのだが、その瞬間から好きになったのはいい思い出である。現物のみの話だが……。

その日を境に、私は絵画に「匂い」を感じるようになった。といっても、いわゆる「巨匠」といわれている人たちの絵画作品からしか、まだ感じ取れていない。

なかでも独特な匂いを発するのは、ピカソの絵である。「新古典主義の時代」と呼ばれた時に描いた、「腕を組んですわるサンタンバンク」という絵がある。その絵を観た時、甘く、でもスパイスが効いているような不思議な「匂い」がした。

鑑賞し終わった後、ミュージアムショップでその絵のポストカードを買い、家であの「匂い」がどこから感じるのかを、自分なりに考えてみた。構図なのか、描かれている人物の印象からなのか……。考えた末に私が出した結論は「色合い」だった。

渋いようで鮮やかな部分もある、独特な色合いから私は「匂い」を感じたのではないか。そして、これからも様々な作家が持っている独自の色合いに、私は「匂い」を感じていくのではないか、と。

長々しく書いてしまったが、これが前回に引き続き、もう一つの「色」について書きたかったことである。なにか他の共感覚を持つ人がいるなら、そのことも聞きたいと思っている今日この頃だ。

この続きを書きたくないと言えば嘘になるが、今回はこの辺で終わりにしたい。それでは皆さん、また次回。

パブロ・ピカソ《腕を組んですわるサルタンバンク》1923年



【木村きこり】
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