万年思春期[006]6話目 「白と黒」
── 木村きこり ──

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底冷えがするような寒さから一変、春を感じる風すら吹くようになった今日。

私は自分の油絵の方向性について悩んでいた。某ギャラリーで行われるグループショーに、今年の3月発表する予定の絵を描いていたのだが、どっぷりと浸かってしまったのだ。スランプという泥沼に。

今このエッセイを書いているのも、現実逃避と言われてしまっても否定できない。そのぐらい「絵」が描けない。

こんな時、いろんな連中から言われたネガティヴな言葉がリフレインするのだから、つくづく私は始末に負えない面倒なやつだ、と思う。そんな時は「休みを取る」と理由を付けて昼寝をする。寝ることによって脳を「思考停止」させ、いったん冷静になるのが目的だ。





そんな理由で眠ったときの夢は、少し変わったものだった。昔あったことがそのまま再現されていたのだ。その時、私は学内で行われているコンペと、デザイン科の友達と一緒にやる展示のために使う油絵を、仕上げるのに必死だった。

二人で焦りながらしゃべっていると、ある男の子が近づいてきた。その子は友達のクラスメイトで、ちょっと毒を吐くようなしゃべり方で友達の作品をからかった。そして私の絵を見て、「木村さんの作品は白の使い方が面白いね」と言い去って行ったのだ。

眠りから覚めた時、懐かしさとあの時のもやがかかった感情を思い出した。「白の使い方」か。

決して悪気はそれほどなく感想を言っただけなのだろうが、何かが引っ掛かる。それは「白」に頼ってしまう自分に納得がいかないところが大きな原因だろう。そう私は「白」は使うが「黒」は使わない。使えないのだ。

「黒い絵の具」を上手く使いこなす作家の作品は、画面に締まりがある、気がする。例えば、藤田嗣治。藝大を卒業した際に描いた自画像など、黒の配置が非常にかっこいいと思う。

しかし、私が同じような黒の使い方を試みると絵の具の彩度が落ち、ドロドロの灰色の塊になってしまう。そこで、プルシャンブルーなどのなるべくそのままの色が濃く、暗くみえやすい絵の具を使って誤魔化してきた。

これじゃあ、自分の幅が狭くても仕方がないわけだ。藤田はパリに行き、乳白色の裸婦像で一世を風靡したらしいが、そこには「白」の研究もあり、そのうえで黒を使いこなしたからなのだから本当に感服する。

今私が考えていることは、「失敗しても新しいことに挑戦する」という心意気を、強く持つことだと思っている。失敗した作品はギャラリーには持っていくことはできないが、今後の創作活動には決して無駄にならないはずだ。

そうこう書いているうちに、ギャラリーからメールが届いた。リミットは近づいて来ている。精いっぱい最後まで制作していきたい。どうか応援宜しくお願いします。


【木村きこり】
漫画家/美術家
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