万年思春期[003]3話目「線と活字」
── 木村きこり ──

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活字というものが、私は時々怖くなる。ワープロで文字を打っている間、なんだか身体の中がザワザワしてくることがあるのだ。それはきっと私の、漫画家になった時のある出来事がトラウマになっているからだと思う。今回はその話をしよう。




さて、トラウマの話の前に、私が漫画家になる経緯を少し語らせていただきたい。

私がこの職業を志したのは小学3年生の頃だ。当時少女漫画ばかりを読んでいた私は、某少年漫画原作のアニメーションを見て深く感激した。すぐにお小遣いをはたいて原作の単行本を買い夢中になって読んだ。

その漫画の世界観や人物の形に魅了された私は、同じように漫画家になって漫画を描きたいといつしか思うようになっていた。しかし、私の親は漫画家を目指すことに対してまったく肯定的ではなく、描こうとすると邪魔をする。

結局、漫画絵のイラストを少し描いている程度で中学・高校を過ごし、原稿用紙に漫画というものが描けたのは大学一年の頃だった。当時22歳、いろんなマンガを描いたが、何処の出版社に持っていってもダメだしの繰り返しだった。

今の私に描けることはなんだろうと考えた時、大学のソーシャルケースワーカーさんが「エッセイ漫画はどうかな?」と、私の持病である「統合失調症」の日々を、4コマ漫画にする提案をしてくれた。それは主治医に、自分の日々あったことを上手く伝えられない、私の治療的な意味も含まれていたと思う。

溜まった4コマを選別し16ページの原稿を作り、主治医のところに置いてあった雑誌「メンタルヘルスマガジン こころの元気+」に送ったところ、2本だけ採用され読者投稿ページに載せてもらった。今思えば、漫画の商業誌ではないが、雑誌にデビューした訳である。

当時、すべてアナログで描いていた私は、自分の漫画の吹き出しの文字が活字になるということがすごく嬉しかった。掲載誌が届いた時、本当にわくわくしながら開いたものである。しかし、自分の漫画を見て愕然とした。それは描かれている線が、吹き出しの文字に負けていたからである。

私の漫画の線はあまりにも細く、かといって描き込むタイプの絵柄でもなかったため、セリフの活字の主張が強くなってしまったのである。きっと雑誌の編集の方は、精いっぱい合うモノを選んでくれたと思う。それぐらい私の絵の線は弱かった。

「このままではいけない」と、私は焦った。幸いこの雑誌からはその後も仕事が来ていて、そこで前作の欠点を巻き返すべく、線を太くしたのは今となってはいい思い出である。それから、なんだかんだ漫画雑誌にも持ち込みをし、なんとか大学を出ると同時に単行本を出すことができた。かなり担当や周りの人の協力があった。そのことには感謝したい。

しかし今、漫画に関しては新しい問題に直面している。当時目指していた、いわゆるフィクションの漫画でデビューがしたいと思っているのだ。いくつかの雑誌社で「担当」と呼ばれる漫画を見て指導してくれる方々はいるのだが、実力が足りないのでデビューができていない。

今となっては、私の作業は線画までがアナログで、最終的には吹き出しの中の文字は自分で活字を入れ提出する。その度にザワザワするのだ。あの時のように「線が活字に負けたらどうしよう……」と。漫画の世界は奥深い。いろんな方法を今のうちに試して、いつかこの業界の一線で活躍できる漫画家になりたいと思う。

だが、その道のりはまだまだ長そうだ。トホホ。


【木村きこり】
漫画家/美術家
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